230 ソフィア王女の判断
才ある魔法使いと騎士たちが一堂に会した。彼等は呼吸を合わせてヒメネス城砦軍に立ち向かう。ソフィア王女たちがいる円塔は、飛竜が翼を広げられるほどの広さがある。それでも壁に囲まれた閉鎖空間だ。その壁と床は岩に見える黒い魔物である。
「この建材は魔物なんですってね?」
「はい、その通りでございます」
公式の場なので、隊長は堅苦しい受け答えをした。気持ちが伝わる前には、王女にはそれが悲しくもどかしかった。だが今では、くすぐったくて心が浮き立つのだ。隊長の堅苦しさもソフィア王女には可愛らしく見えていた。
3階まで順調に消滅させて来たガヴェン、フランツ、エルナンもカチアや隊長たちに合流した。
「隊長ぉー、丘の掃除は誰がやんですか?」
武器やら書類やら家財道具一切合切、飛竜騎士の羽ばたきが吹き飛ばした。魔物は魔法で消滅する。魔物だけが消える。つまり床も消える。消滅した床に載っていた物は、当然下に落ちる。階下には人がいる。そこで、階下に降る前に塔の外へと吹き払ってしまったのだ。
外へと飛ばされた物はどうなるか。自然災害の跡地のように地面に山積みとなる。飛ばされて落下した衝撃でどれも壊れて見る影もない。当然誰かが片付けることになるだろう。
「ギラソル公の采配次第だろ。俺たちは魔物退治に来てるだけなんだ」
隊長は暗に、要請がなければ魔物殲滅後は引き揚げる意向を示した。
屋上にいた人員が皆、三階部分に集まっていた。少し人口密度が高くなる。飛竜は外に出て行った。3階部分の壁はすぐに消え、既に無人となった床も処理される。
「2階始めるぞ!巡視隊、飛竜を足場に魔法使いを守れ!飛竜騎士の皆様、頼みましたよ!」
隊長の号令で、巡視隊が二手に分かれる。ガヴェンとフランツは塔の外へと離脱してゆく。先ずは外壁からだ。
「始めましょ」
ガヴェンはにこりと笑うと指環を飾る赤い石に口付けた。魔法を使う予備動作である。
「おう!始めようぜ、ガヴェン。スージー、お前ぇもやってみな!」
「おいフランツ!なに人の妹こき使おうとしてんだよ?」
「兄上、巡視隊隊長殿、お手伝いさせて下さい!」
ガヴェンの妹エリザベス・スーザン・ウェンディは魔法の防壁に専念していた。魔物退治は未経験である。
「隊長、どうします?」
「この魔物は動かないし、触れた物を呑み込むだけみたいだな」
隊長はカチアに同意を求めた。カチアは魔物討伐隊所属の専門家である。
「記録のない魔物なんです。今んとこ反撃は受けてないですし、魔法を吸収して分裂や強化が起こる様子もありませんが」
カチアは言い淀む。
「討伐手順が確立していない未知の魔物は初心者向けではないということですか」
隊長が話を引き取った。カチアは厳しい顔で頷く。
「なんだよ姉貴。スージーなら行けんだろ」
「フランツ!この愚弟が」
兄妹喧嘩が始まりそうになる。隊長は素早く片手を上げた。
「勅使ファージョンは討伐隊でもなければ巡視隊でもない」
「巡視隊隊長殿」
エリザベスが緊張して隊長を見た。
「勅使が勝手な助太刀したらダメだろ」
「兄上っ!既に防御のお手伝いはしてるんですよ!見ているだけなんて性に合いません」
ガヴェンの正論にエリザベスが主張する。
「良いじゃないの。どうせこんな状況だもの。お手伝いして貰いましょうよ」
「流石王女様!話が分かるわぁ」
ソフィア王女の鶴の一声で、エリザベスは岩の魔物を処理するグループに加わった。
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