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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第二章 夢の貴方を救いたい

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23 ルシア・ヒメネスの時代

 ガヴェンの話は続く。隊長も興味深そうに聞いている。老婦人は、蜂蜜入りの生姜湯を配った。今度の器は、少しでこぼこした分厚いガラスだった。ベリー類、柑橘類、そして乾燥させた紅い花びらが底に沈んで、良い香りが緊張を解す。


「ルシアのお母さんは遍歴修行から帰った時、ルシアを連れてたんだって。旅先で出会ったお父さんは盗賊に殺されてしまったんだそうだよ。その人が魔法使いだったらしいんだ」

「それで、騎士一族なのにルシア・ヒメネス様は魔法使いなのね」


 ガヴェンは頷く。


「よく聞いて?ルシアは剣に魔法の光を纏わせて戦ったという記録が残っている」

「それ……!」


 ゲルダがおもわず立ち上がる。


「ベルシエラと似てるだろ?多分それで、国王陛下はベルシエラにルシア・ヒメネスの名前を下賜し、セルバンテスに嫁がせたんだと思うよ」

「ルシア・ヒメネス様の時代は、セルバンテス家の栄えていた頃だって伺いました」


 王の狙いがなんとなく解ってきた。


「その通り。ベルシエラの登場は、国にとって大事な家柄にかつての勢いを取り戻させるには、願ってもないチャンスだったってわけ」



 ガヴェンはパンと手を打つと、金茶色の垂れ目を小粋に瞬かせた。


「俺の話はこれでおしまい。どう?続きを調べて欲しい?」


 ベルシエラは、ガヴェンの様子がいつもと違う理由も、なんとはなしに感じ取った。


(ファージョンは隠れた語り部の一族なのね)


 歴史を紐解く語り部は、いつの世もどの国でも、事細かに家系図や地勢から語り始める。だが、残念ながらここには良い聞き手がいない。叙事詩が語る故事来歴の叙述は、人によっては苦痛を感じるものなのである。


「ガヴェン、生き生きしてんな」


 フランツは叙事詩が苦手なようだ。苦い顔で果実入りの生姜湯を飲み込んだ。


「ルシア・ヒメネス様とセルバンテス分家の由来は解ったけど、エンリケ様が発病しなかった手がかりにはならなかったわね」

「うっ、鋭いな。そこはこれから調べるんだよ」


 ガヴェンは言い訳をした。


「ルシア・ヒメネスの時代まで遡る必要があるのか?」


 隊長は、皆の疑問を代表して質問した。


「魔法酔いを治す方法が元ヒメネスのセルバンテス分家にあるなら、エンリケが完治したあと、みんなそこに滞在したら良かったんじゃないのか?そうすれば、先代のご夫婦も当代とその弟たちも、元気になってる筈だろ?」


 ガヴェンの指摘は最もである。


「隠れて光る石を掘り当てないとね」


 ガヴェンのウィンクに、フランツが苛立つ。


「わかりやすく言えよ」

「フランツは短気だなぁ」


 フランツは舌打ちをする。ガヴェンは両掌をフランツに向けて防御の真似事をした。


「解ったよ」


 皆が注目する中、ガヴェンは結論を言う。


「セルバンテス本家の魔法酔いも、ルシア・ヒメネスの時代に始まってるのさ」


お読みくださりありがとうございます

続きます

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