221 円塔の破壊
ベルシエラが作業に戻ると、アルトゥールはラウールたちに指示を出した。
「塔の屋上から岩の魔物を討伐したまえ。魔物討伐隊のプフォルツ殿のご意見を必ず伺うように」
「了解致しました」
ラウール・ブランは塔の上部へとって返した。カチアから上層階が無人らしいと聞き、早速屋上の壁から壊しにかかる。
「それにしても、人間以外は気にしなくて良いって凄いな」
「キャンベル隊員の記録道具、半端ないですよね」
魔法を纏わせた尻尾で黒い岩の魔物を叩き潰しながら、ラウール・ブランと部下が雑談をする。
「けど、ブラン殿、下の階けっこうみんな疲れてましたよね」
「そうだなあ」
「交替しなくていいんでしょうか」
「若君様からもクライン殿からも、我々は上層階の破壊を言いつかっている」
ラウールは自負心を見せた。
「この城砦は魔物だ。魔物を消滅させられるのは魔法使いだけだ。我々の力が必要とされている」
その言葉に隊員は力付けられた。
「そういうことなら」
「やりましょう」
「やってやりましょう、俺たち」
今のところヒメネス城砦側の戦力は、塔の下層階に集中している。塔の上層階はさながら建造物解体現場の如く作業に専念できた。
飛竜騎士たちは尻尾で叩いたり羽で風を送ったりしながら屋上を壊してゆく。鋭い龍の爪が白く色を乗せた魔法を纏って、蠢く岩を削ってゆく。頭上高く星空からは輝く月が見下ろしている。
「おい、あれ」
「ああ、そうだな」
屋上の壁があと少しで取り去られる頃、月光が注ぐ雪原に雪煙が上がる。龍馬の鱗が光り、人に姿を変えた飛竜騎士が馬上の人となっている。鱗ある軍馬に跨る雪龍の血族は、氷の滝にも似た奔流となって凍える空から降って来る。
「森に25騎置いて来たんじゃなかったのか」
「龍馬隊だけで50はいるぞ」
「いや、それは大袈裟だろう。せいぜい30だ」
「降りてんのは半分程か」
地上に待ち構える一団は、ヒメネス領主一族を筆頭に雪原を横切る魔法騎馬隊の後続隊らしい。砦の実験室が制圧されたとの知らせでも受けたのだろう。今朝から応援部隊を編成して雪原を渡っていたのだ。
銀盆のような月は天頂に達していた。森の方角を眺めれば、もうひと群れの飛竜がこちらへと向かうのが見える。塔の屋上からは数までは解らなかった。
「夜明け前には予定通り増援が到着するといいが」
激しい雪煙と魔法の光が雪原の中ほどの空に広がっている。魔法騎馬隊の第二隊を下してヒメネス城砦まで辿り着くのは、予定より遅れそうである。
「龍馬隊より先に巡視隊とギラソル公の精鋭隊が到着しそうだな」
「そうなりそうだな」
「とにかく俺たちは、少しでも多くの魔物を削っておこう」
「みんな、無駄口は程々にな」
ラウール・ブランの一言で、一同はまた屋上を組み上げている岩の魔物に集中した。
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