22 密やかに語り継がれた記録
「おい、なんでそんなこと知ってんだよ?お前、ファージョンだろ?セルバンテスじゃねぇよな?あっちに親戚でもいんのかよ?」
予期せぬ発言を聞いたせいなのか、フランツはかなり砕けた口調になった。2人は魔法公爵家同士で、気の置けない間柄なのだ。
「ファージョンとセルバンテスは、どちらも建国の功労者なんだよ。古い家柄だから、俺ん家は宝の山だぜ。口伝も含めりゃ、誰にも負けねぇ知識の保存庫って言えるな」
「へぇー、知らなかったなぁ。お前ん家の媒体は指輪だろ?まさか記録を溜め込んでるとはなぁ」
フランツのプフォルツ家の紋章には本がある。魔法の媒体として使うのは本だ。本に象徴されるように、知識や情報の方面に強い家柄なのである。
「お前さ、我が家の家訓知らねぇのかよ?」
「んあ?」
「魔法公爵ファージョン家、紋章は山と指環。魔法発動の媒体は指輪。現在の魔法四公爵家のうちじゃ力は弱いが、歴史が古い」
「なんだ、自慢かよ」
ベルシエラは、何故知っているのかはどうでも良かった。横道に外れるのがもどかしい。早くルシアのどこが特別だったのかを聞きたかった。
ガヴェンは躑躅色の束ね髪をシューっと扱いて背中に放る。隊長が髭を捻る姿を真似たのだ。
「モットーは、堅くあれ 密やかにあれ 輝く石の如く。魔力を込めると光る石は山の中にひっそりとあることから。発光石は、ファージョンの始祖が偶然洞窟で発見したのさ」
「それで?何が言いたいんだよ?」
フランツは苛立ちを見せた。他の皆は我慢強く聞いている。
「つまりだ。我がファージョンは、真実を照らす光を密やかに語り継いで来たのさ」
ベルシエラは少し苛立って眉を怒らせた。
「あっ、ベルシエラ、そう怒るなって。今言うからさ」
「ルシア・ヒメネス様の何が特別だったんです?それは魔法酔いと関係のあることでしょうか」
ベルシエラの口調に棘が生えた。しかし一方で腑に落ちない部分もあった。
(ガヴェン様ったら、どうしたのかしら。カッコつけるのはお好きな方だけど、無駄口やくどい脱線はしたことないのに)
洒落者のガヴェンは、ベルシエラに睨まれてたじたじである。
「あはは、俺、ダッセェなぁ」
「それで?」
フランツもせっつく。
「ヒメネスは、セルバンテス傘下の騎士一族でね。ルシアは突然、魔法の才能を花開かせたんだ」
「そんなこと、あるの?」
「いや。庶民出身でも貴族でも、魔法使いは魔法使いさ。遺伝以外には考えられないね」
「そうよね。養成課程でも習った」
つまり、ベルシエラも魔法使い家系だということだ。いまだに不思議な髪飾りについての手掛かりは見つかっていないのだが。
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続きます




