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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第十一章 魔法使いの末裔たち

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218 満月の攻防

 飛竜の頭を越えて、ベルシエラの炎球が運び出されてゆく。人が運ばれているとは知らずに、衛兵は炎を相殺しようと水や氷の魔法使いたちを前線に出した。


 小さな窓から見える外は、もうすっかり暗くなっている。だが城内は魔法使いたちの炎や光で真昼のように明るかった。


 激しく打ち交わされる剣戟(けんげき)の音が鳴り響く。ベルシエラは慣れない血の匂いに具合が悪くなってきた。黄金の太陽城麓の砦でも地下の実験室が酷い臭いで目眩がするほどだった。同じ日のうちに2回も血生臭い現場を経験して、ベルシエラは逃げ出したい思いでいっぱいだ。


 なんとか気力を保って炎球の運搬に集中する。それでも天井の穴から階上の様子が垣間見える。



「ぐわぁ!」

「ぎゃああ!」


 呻き声や叫び声が降って来る。縦に重なる飛竜の影が魔法の炎でちらちらと揺れる。


 2階では、敵の中から魔法使い数名がギラソル領白銀の月魔法団員に近づく。マントの印で砦の魔法使いだと知れたのだ。


「白銀の月魔法団の方ですね?」

「砦は長年に渡り旧領主派の巣窟だと聞いていましたが」

「ヒメネスを落としに来られる方もおられたとは!」


 飛竜が翼を拡げると、床に開けられた穴が塞がる。翼を狙う敵の刃は、軽く羽ばたいて吹き飛ばす。階下から喉元めがけて放たれる矢は、カチアの光が叩き落とした。



「蔦の紋章!魔物討伐隊の方ですね!」


 一階にいた魔法使いが、風に乗ってカチアの側までやってきた。カチアは地下の穴を守りながら一階の壁を崩そうと奮闘している最中だ。


「確かにそうだが」


 カチアが答える。


「良かった!漸く我等の悲願が叶いました」

「悲願?」


 裏切りを明かした魔法使いめがけて長槍が突き出された。ギラリと光る鉄の穂先に魔法の光が(いろ)とりどりに反射する。


「我等は反旧領主主義者、つまり王国派です!」



 階上でも王国派に剣や魔法が迫る。ひとりの魔法使いが細長い杖を槍に向けた。


「あんた、月の民か?」


 ギラソル領の魔法使いが、王国派の杖に刻まれた印に目を付けた。ギラソルと鎌月が隣り合った紋である。エルナンの杖頭にも入っていた。


「はい、先祖が海辺まで流れてきたようです」


 銀の光が杖から出るが、浄化を覚えたエルナンや老魔法使いよりは弱々しい。髪も銀より灰白(かいはく)に近い。魔法使いは訴えた。


「ここは、罪なき人々を餌にした魔物で造られた城なのです!」

「今上に飛んでった球は、餌にされるところを助けたのさ」

「なんと!」

「まあ、大勢いるから時間はかかりそうだけどな」



 次々に集まる王国派のなかには、魔法が使えない剣士もいた。防刃(ぼうじん)防魔(ぼうま)の素材でできた鎖帷子を着込んで応戦している。



「だいぶ削れてきたな」


 カチアが壁に光をぶつけながら言った。


「もう一息です」


 アルトゥールが尻尾で壁を叩きながら答えた。


「無駄だよ!」

「穴なんかすぐに塞がる」


 ヒメネス城砦の旧領主主義者たちが嘲り笑う。カチアは振り向いてぼやく。


「人間相手はどうもやりにくいよ」


 王国派にはベルシエラによる防護の炎が施されていない。その人々を守りながらの戦いである。普段は魔物を相手にしているカチアも、人間を傷つけることには抵抗があった。


「崩れた!」


 アルトゥールの一撃で、とうとう壁に穴が空く。真っ暗な空には、銀盆を思わせる大きな月が昇っていた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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