217 味方とすべきは誰なのか
「早くご領主様へ伝令をー!」
「止まれ!床に大穴がある!落ちるなよ」
「魔法使い!何とかしろ」
「ロープもってこい!梯子はないか!」
腰を抜かして座り込む者。転んだ兵を蹴り飛ばす者。手当たり次第物を投げて来る獰猛な者。穴に阻まれて階段にも辿り着けない者どもは右往左往している。
「風防の道具がない者は部屋に隠れろ!」
「ぎゃああ!龍の羽ばたきで飛ばされる!」
魔法が使えない兵士も来た。塔の中にある武器庫に飛び込み弓矢や投擲用の短剣を引っ掴み、生き延びるために攻撃を仕掛ける。
「邪魔だね!鬱陶しい」
「ひいいっ、矢がたくさん」
飛竜の背から魔法使いたちが矢の雨や槍襖に対抗した。灰色の男もカチアの隣でせっせと矢や刀を振り払っていた。この男の魔法媒体はどうやらローブのようである。バサバサと袖や裾を振ると、ほんのりと柔らかな灰色に光る綿毛のようなものが舞い散った。
「へえ、やるね。灰色の」
「ありがとうございます」
カチアは山賊風に笑い、灰色の男は引き攣った笑みで応えた。
ぶわりと白い翼が上下し、すーっと一階分下がる。廊下の扉がバタバタと開く。剣を振り翳した兵士たちが、青褪めながらも襲ってくる。龍の背中にいる騎士が槍を突き出し、寄り来る敵を薙ぎ払う。
「クラインどの!うしろ!」
「プフォルツ殿、ご安心召されよ」
尻尾にしがみつこうとした者がいた。純白に輝く尻尾の優雅な一振りで、不届者は塔の窓から外へと飛ばされた。
カチアたちは程なく地下まで降りてきた。仲間の魔法使いたちは一階部分の壁に向かって魔法を放つ。上空まで持ち上げるより、一階から外へ出す方が効率的だと思ったのだ。
「思ったより硬いな」
「そうですね、クライン殿。幸いこの魔物は、魔法そのものは喰わないようですが」
「魔法を持つ生命体を餌にしているようですね」
魔法使いたちが壁に穴を穿とうと努力している間、騎士たちは駆けつけてきた衛兵と刃を交えた。作業の邪魔をさせまいと、必死で応戦していた。
「味方って人は、今どこで何をしているのですか?」
アルトゥールがやや苛立ちながら、背中に乗せた灰色の男に訊いた。
「分かりません。今朝、城に残っていた領主一族も遠出したと告げに来ました。それ以来会ってません。証拠を持って逃げるようにだけ言われてます」
灰色の男は不安そうに俯いた。必死で行動していたが、改めて言葉にしてみると何の保証もない逃亡計画だ。
「それ、そいつが味方というより、灰色のを利用しようとして捕まえただけなんじゃないの?」
カチアの見解は最もだ。優れた魔法使いを餌の中に送り込む。餌場を隠れ蓑にして内偵を行う。旧領主主義者たちに歯向かう方法としては、なかなか良い思いつきではある。道義上の問題は大きく残されるが。
「危険な部分は人任せかよ」
カチアは忌々しげに吐き捨てる。
「無関係な魔法使いたちを餌場に放り込むとは、とんだ卑怯者だな」
アルトゥールの眉間に縦皺が刻まれる。
「人の命を何だと思っているのかしら?」
ベルシエラの瞳に怒りの涙が滲む。先代夫人も流石に悲しそうな様子だ。
「王国派も叛乱軍もたいして変わりゃしないのね」




