214 ベルシエラたちは降りてゆく
灰色ローブの魔法使いに教わり、犯罪者と協力者を分ける。詳しい取調べは後回しだ。今は魔物の餌にされかけている人々の救助が先である。
ちょうどそこへ、先代夫人の幽霊がやってくる。
「ベルシエラさん、急いで!早く、早く」
(お姑様、如何なさいましたか?)
「ああもう!とにかくはやく!みんな食べられちゃうわ!」
ベルシエラの目つきが険しくなる。
「皆さん、地下へ急ぎましょう」
灰色ローブの男は生唾をゴクリと飲み下す。
「ご案内します」
男は、ロープのようにした灰色の光をうっすらと足に巻き付けている。隠密効果のある魔法のようだ。強い味方が現れても、習慣的に身を隠そうとしているのだろう。
先に立つ気満々で入り口に来た灰色の男を、ベルシエラは魔法で持ち上げる。
「わっ、浮かすなら先に言ってくださいよ」
「あら、ごめんなさい。次からそうするわ」
これまで抗議されなかったのは、驚き過ぎたからか驚異的な実力に心酔したからか、どちらかである。ベルシエラは初めて注意を受けて、人は急に持ち上げられたら恐怖を覚えるのだ、と学んだ。
「クライン殿、乗せてあげて下さい」
「承知致しました」
ベルシエラは灰色ローブの男をアルトゥールの背に乗せる。飛竜騎士団は人に戻らず滞空していたのだ。竜化を解くのは容易いが、飛竜になるには長い詠唱が必要だ。撤退時の有利さを計算に入れて、アルトゥールたちは竜のままでいた。
「地下まで床を抜くわね」
ベルシエラが気楽な調子で告げる。灰色ローブの男は声にならない悲鳴を短く上げた。アルトゥールが絶句した。カチアは辛うじて反対するゆとりがあった。
「え?また何を言い出すんですか?人がいたらどうするんですか」
「魔物だけを焼くように調整するから心配ないわ」
カチアも呆れて言葉を失う。
「僭越ながら申し上げます」
アルトゥールが厳しい表情で進言した。
「何でしょう、クライン殿」
「焼かれなくても、床がなくなれば人間は落下するものです。そして、魔法使いでも浮かぶことの出来ない者は案外多いのですよ」
ベルシエラは反省した。ここ数日は高い能力を持つ魔法使いとばかり行動を共にしてきた。飛竜の協力もあった。人間が基本的には飛ぶことが出来ない生き物なのだ、ということを忘れていた。
「う、そうよね。忘れてたわ」
ベルシエラは正直に認めた。
「とりあえずは下の階だけにしとくわよ」
ベルシエラは廊下に立って見える範囲の外壁を焼き払う。それから炎を纏って床に開けた大穴に飛び込んだ。先代夫人はそのまま下の階の床も抜ける。
「アイラ、このへんの部屋に人はいる?」
下りたところにある部屋の様子をアイラが道具を使って調べた。
「いません」
確認が済むとベルシエラは、飛竜のサイズに合わせて通路も部屋もまとめて焼き払った。




