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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第十一章 魔法使いの末裔たち

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214 ベルシエラたちは降りてゆく

 灰色ローブの魔法使いに教わり、犯罪者と協力者を分ける。詳しい取調べは後回しだ。今は魔物の餌にされかけている人々の救助が先である。


 ちょうどそこへ、先代夫人の幽霊がやってくる。


「ベルシエラさん、急いで!早く、早く」

(お姑様、如何なさいましたか?)

「ああもう!とにかくはやく!みんな食べられちゃうわ!」


 ベルシエラの目つきが険しくなる。


「皆さん、地下へ急ぎましょう」


 灰色ローブの男は生唾をゴクリと飲み下す。


「ご案内します」


 男は、ロープのようにした灰色の光をうっすらと足に巻き付けている。隠密効果のある魔法のようだ。強い味方が現れても、習慣的に身を隠そうとしているのだろう。



 先に立つ気満々で入り口に来た灰色の男を、ベルシエラは魔法で持ち上げる。


「わっ、浮かすなら先に言ってくださいよ」

「あら、ごめんなさい。次からそうするわ」


 これまで抗議されなかったのは、驚き過ぎたからか驚異的な実力に心酔したからか、どちらかである。ベルシエラは初めて注意を受けて、人は急に持ち上げられたら恐怖を覚えるのだ、と学んだ。



「クライン殿、乗せてあげて下さい」

「承知致しました」


 ベルシエラは灰色ローブの男をアルトゥールの背に乗せる。飛竜騎士団は人に戻らず滞空していたのだ。竜化を解くのは容易いが、飛竜になるには長い詠唱が必要だ。撤退時の有利さを計算に入れて、アルトゥールたちは竜のままでいた。


「地下まで床を抜くわね」


 ベルシエラが気楽な調子で告げる。灰色ローブの男は声にならない悲鳴を短く上げた。アルトゥールが絶句した。カチアは辛うじて反対するゆとりがあった。


「え?また何を言い出すんですか?人がいたらどうするんですか」

「魔物だけを焼くように調整するから心配ないわ」


 カチアも呆れて言葉を失う。



「僭越ながら申し上げます」


 アルトゥールが厳しい表情で進言した。


「何でしょう、クライン殿」

「焼かれなくても、床がなくなれば人間は落下するものです。そして、魔法使いでも浮かぶことの出来ない者は案外多いのですよ」


 ベルシエラは反省した。ここ数日は高い能力を持つ魔法使いとばかり行動を共にしてきた。飛竜の協力もあった。人間が基本的には飛ぶことが出来ない生き物なのだ、ということを忘れていた。


「う、そうよね。忘れてたわ」


 ベルシエラは正直に認めた。



「とりあえずは下の階だけにしとくわよ」


 ベルシエラは廊下に立って見える範囲の外壁を焼き払う。それから炎を纏って床に開けた大穴に飛び込んだ。先代夫人はそのまま下の階の床も抜ける。


「アイラ、このへんの部屋に人はいる?」


 下りたところにある部屋の様子をアイラが道具を使って調べた。


「いません」


 確認が済むとベルシエラは、飛竜のサイズに合わせて通路も部屋もまとめて焼き払った。

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