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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第十一章 魔法使いの末裔たち

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213 証拠と証人

 ベルシエラは男から距離を保って質問を続ける。無用な威圧を与えないための配慮だ。


「この部屋に住んでるの?」

「いいえ!ここには証拠を探しに来たんです」


 男は待ってましたとばかりに声を張る。


「自由に歩き回れるの?」

「そこはその、わたしゃこう見えて魔法がちょっと使えるもんで」

「ふうん?」


 ベルシエラはじろりと灰色の男を睨む。


「その、連れてこられたのはわたしだけじゃありませんで、みんな地下に詰め込まれてんです」

「ちょっと見てくるわね」


 先代夫人が城の構造を調べに立ち去った。地下への道もすぐに判るだろう。



「証拠かぁ」


 ベルシエラは改めて部屋を見回す。


「残念ながらまだ、領民や旅人たちを喰らわせて魔物を育てていたという記録や資料は見つかりません」


 灰色の男の証言に、ベルシエラは僅かな間思案した。


「ねえ、すぐ隣に部屋はあった?」

「えっ、まあ、両隣にあります、ありました、けども」


 ベルシエラは苦笑いをした。


「カチア様、クライン殿、どうしましょう?ひとつかふたつ、お部屋を焼き尽くしてしまったかも知れません」

「えっ」


 灰色ローブの男はさらに隅へと後ずさる。


「奥方様、ご安心くださいませ。アイラがいますよ」


 カチアがニッと笑う。


「あっ、そうだったわね。思い出見える君3号」

「はい。この城の内部で作成されたり閲覧されたりした資料なら、全て記録できます」

「頼もしいわね。それなら、犯罪者と被害者を城から出して、さっさと建物を焼いちゃいましょう」

「建物を焼く?いや、あなた方ならお出来になるんでしょうね」


 灰色ローブの男はブルブルと震え出した。



「しっかし、けっこう大きな音がしてたのに、誰もこないな」


 カチアが不審がって湾曲した廊下の奥を覗くそばから、ヒメネス城砦の衛兵が駆けつけてきた。


「ああ、そりゃ来るよなぁ。ずいぶんと遅かったけども」

「精鋭は皆出撃して、雑魚が留守居をしていたのではないでしょうか」


 カチアの嘲りに、アルトゥールは淡々と分析を述べた。


「一応は魔法兵みたいね」


 ベルシエラは、さまざまな媒体を駆使する衛兵たちをさっさと炎の球に閉じ込める。


「貴方も手伝う?」


 ベルシエラは灰色ローブの男をスカウトした。


「は、はい、出来る限りのお手伝いをいたします」


 状況的には断れないが、この男なら拒否しそうでもあった。ベルシエラは意外そうに男を見る。


「怖かったら、いいのよ?」

「大丈夫です」


 男は一度大きく息を吐き出すと、壁に手を付いてそろそろと立ち上がった。


「あの、今捕まった人の中にも、こっそり助けてくれようとしていた人たちはいますよ」

「どの人か教えてくれる?」


 その程度のことなら、場所の記憶を辿るよりも知っている人に聞いた方が早い。


「炎の檻は外の様子が解らないから、気にせず言ってちょうだい」

「奥方様はとてつもない魔法使いなんですねぇ」


 灰色ローブの男は大いに感心して部屋の隅を離れた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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