212 灰色のローブを着た男
先頭のベルシエラが内部を見回す。生き物の姿はなく、黒い魔物の壁や天井が見えるばかりだ。穴を潜って内側に入ると、一行は左に曲がった。閃光が見えたあたりにも人影はない。丁度その付近にある扉をベルシエラの魔法で焼き落とす。
「ぎゃああっ」
中にいた灰色のローブを着た男が悲鳴を上げた。中年に差し掛かる頃だろうか。頭に白いものが混じっている。
「ごめんなさい、驚かせちゃったわね」
「な、なんですか、あなた方っ」
怯えながらも質問はしてくる。それなりに肝が座っているようだ。
「ギラソル魔法公爵夫人ベルシエラ・ルシア以下12名、魔物を増殖させた廉でヒメネス城砦関係者を摘発に来たわよ」
幽霊はカウントされなかったので、先代夫人が口を尖らせる。
「わ、私は関係ありません!このままでは魔物の餌にされてしまう!助けてください」
灰色ローブの男が懇願する。
「閃光を放ったのはあなたね?」
「はい。名高い雪龍の皆様が見えたので、助けかと思って」
「なんだお前。助けを求めておいて、人を侮辱するようなことをほざきやがって」
カチアが凄む。ローブの男は部屋の隅で尻餅をついた。それでも抗議はしてくるので大したものである。
「そりゃ、あんな風にお入りになられたら、誰だって賊だと思いますよ!」
助けが来たかと安心したら、建物に風穴を開けられてしまったのだ。ある意味では敵襲なので、この男性の評価は正しいのである。まして、ノックもなくいきなり扉が焼かれたのだ。恐怖以外の何ものでもないではないか。
「乱暴な訪問をしたことは謝るわ」
「びっくりしましたよ」
「ごめんなさいね?こっちも魔物で出来た城砦の中じゃ、お上品にしてられないのよ」
「ああ、まあ、それは、そうでしょうけれども」
まだ不満そうではあるが、ベルシエラの言い分にはある程度得心がいったようだ。
「それで、魔物の餌になるんですって?」
ベルシエラは改めて聞き取り調査を始める。
「あ、そうです。そうなんです。わたしゃしがない港の人足なんでございますが、理由もなく城に捉えられてしまいましてね」
「港ではどんな仕事をしていたの?」
人足というからには、荷運びをしていたのだろう。危険な積荷を知らずに運ばされていたのかもしれない。魔物の輸出でもしていたら大事である。陰謀が海を越えてしまう。
「魔法がちょっと使えますもんで、荷物を軽くする仕事でした」
「おかしな積荷でも見た?」
「いえ、特には」
ベルシエラはひとまずほっとする。
「魔法の気配がある品物は?」
渡来人の出身大陸に魔法はない。魔法道具の輸出や魔法使いの輸送は禁止されている。
「それも特には」
「港で気になる噂はなかった?」
砦でも、黒い魔法使いの噂を聞いた人々が暗殺されていた。
「いえ、わたしゃ噂には疎くって」
どうやら、本当に理由なく連れてこられたようだ。
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