21 病気を治す手がかり
隊長は、思い当たる点を挙げる。
「参考になるかはわからないが、先代ご夫婦は歴代の中でも発病が遅かったんだ。世代を経て体質が変わってきたのかと、皆期待していたのだがな」
「エンリケ様だけいまだご健勝なのは、何か理由がありそうです」
ベルシエラは重ねて言った。皆も同じことを考えているようだ。
「他の直系の方々と違う点はございませんか?」
ベルシエラの質問に、隊長はしばし目を閉じて記憶を探っていた。やがてゆっくりと目を開く。
「そういえば、むしろ幼い頃は真っ先に発病して、分家に預けられたと聞いたことがある」
「分家に?」
ベルシエラは、謎が解明できる期待に胸を弾ませた。
「おお、そうだった。ベルシエラに賜ったルシア・ヒメネス、その方が起こした元ヒメネスのセルバンテス分家だ」
ベルシエラは、かなり重要な手掛かりを得たように感じた。
「元ヒメネスのセルバンテス分家には、病気を治す手掛かりがあるかもしれませんね」
勢い込んで今にも飛び出しそうなベルシエラを、隊長が片手で制する。
「まあ待て、ベルシエラ。まずは、国王陛下からのお沙汰をお待ち申し上げなければならぬぞ」
「ああ、そうでした」
今のところ、結婚せよとしか言われていない。詳しい時期も条件も不明だ。森番の娘を突然歴史ある大貴族に嫁がせるのは、いくらなんでも乱暴なことだ。おそらくは、それなりの教育を施してくれるのだろう。
はっきりと覚えているわけではないが、こうした一連の情報は、小説にはなかったことだ。
(森番や巡視隊なんて、そもそも登場してないし)
第一部で妻の遺体が発見され、第二部で主人公ヴィセンテが調査をする。第三部ではいよいよ叔父を追い詰めて復讐を果たし、ヴィセンテが絶命する。
(だけど、それだけなのかしら)
主人公はヴィセンテである。三人称で語りは進むが、主にヴィセンテの行動や心情に焦点が当たるのは当然だ。妻は突然王命で嫁いできた厄介者として初登場する。第二部で明かされる亡き妻についての情報も、もっぱらギラソル領に来てからのことだ。
(なんか、すっきりしないのよねぇ)
勢いよく扉を閉めすぎて、反動で隙間が開いてしまったような、嫌ぁな違和感が残るのだ。
「デイム・ルシア・ヒメネスの記録を探して見ましょうか?」
洒落者のガヴェンが申し出た。
「女卿?」
ベルシエラは意外に思った。
「あれ?ルシア・ヒメネス様って、騎士なんですか?魔法使いじゃなかったっけ?」
「ルシア・ヒメネスは特別な方だったんだ」
「どんなところが?」
ガヴェンの話に、皆が注目する。隊長もよく知らない逸話のようだ。
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続きます