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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第十一章 魔法使いの末裔たち

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203/247

203 ふたりのルシア・ヒメネス

 地底に映し出された赤毛の女性は、ガブリエラと呼ばれている。女性の胸元に波と船の組み合わせ紋がある。セルバンテス以前のヒメネス家紋だ。状況も合わせて考えれば、この女性はガブリエラ・ヒメネスだろう。ルシアの母だ。


「ヒメネス領主に引き継がれた黒い巻き毛は、ルシア・ヒメネスの父親の血筋から来たのね」


 ベルシエラはエンリケ叔父の一家を思い出してつぶやいた。



 場所の記憶に映し出される紫髪の魔法使いが、ニタリと悪辣な笑みを浮かべる。


「こいつの汁を持たせて、ガブリエラ様がどさくさ紛れに攫って来たあのガキをギラソルの城に嫁がせりゃ、原住民どもは手も足もでなくなるでしょうぜ」

「人聞きの悪いことを申すでない。遍歴修行で出くわした魔法使い共から、赤ん坊を預かっただけだ」


「攫って来た?」


 ベルシエラは思いもよらない情報に目を見開いた。ルシア・ヒメネスは被害者でもあったのだ。


 目の前の記録投写は続く。



 本当に預かったのか、叛乱に利用出来ると思いついて連れ去っただけなのか。それは分からない。


「返さないなら人攫いと変わりませんぜ?」

「やつらとはそのまま行き逸れたからな。今連中がどこを彷徨くやら分からん」

「悪いお人ですよ、本当に」

「お前にも原住民の血が流れているだろうが」


 ガブリエラは軽い蔑みを見せた。


「ひでぇや、ガブリエラ様。流れてるたって、ほんのちょっとなのに。ガキの時分に曾祖父(ひいじい)さんが幾つか魔法を渡してきたのは(なぁ)、結局こうして役に立っちゃあいますがね」


 魔法使いは自らの出自を馬鹿にするような口ぶりだ。ガブリエラはフンと鼻を鳴らした。


「森の魔物も手に入れば、忌々しい王族も殲滅できるかも知れないな」

「全く、奴らは開拓団のくせしやがって原住民なんぞと手を組むなんてよ」

「それもすぐに終わる」


 ふたりは悪辣な笑みを交わした。



 赤毛のガブリエラと紫髪の魔法使いが記録に現れたのはこの時だけだった。植物の魔物を手入れしに来る魔法使いは何人か写っていた。魔物がここに移植されてから現在までの間、重要な会話が交わされたのはこの日だけである。



 それより以前は特筆すべき出来事はなかった。


「この辺で終わりにしましょう」


 ベルシエラの判断で投影は終わる。投影と同時に記録も行っていたので、陰謀の証拠が手に入った。後日王宮の然るべき部署へと提出されるだろう。


「結局、ルシア・ヒメネスは本家に嫁入りは出来なかったのよね。セルバンテスの分家として名前と家紋を賜って、ヒメネス地域を領地として手に入れたけど」


 ガブリエラは、実の兄マテオを実験台にして国家転覆の足がかりとした。マテオは運良く中央官僚に引き抜かれ、平和な人生を手に入れた。しかし攫われた子ルシアは叛逆者の実子と偽られ、道具にされて人生を踏み躙られた。


「ルシア・ヒメネスのためにも、この企みはここで終わらせなくちゃ」


 奇妙な縁の繋がりに、ベルシエラは心を痛めていた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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