201 場所の思い出
ハッピーエンドの手助けをするつもりだった。そこに愛情はなく、ヴィセンテの人間性に惹かれて守りたいと思っただけだ。だが、小説の文章ではなく直接にヴィセンテの恋心に触れるうち、この人に愛されて幸せだと感じ始めた。
作られた病に抗いながら陰謀に立ち向かう勇敢な姿は、ベルシエラに勇気をくれた。ヴィセンテが大切にしているギラソル領を、ベルシエラも共に守りたいと思うようになった。ギラソル領はエルグランデの始まりである。短い間にその誇りまで身につけていた。
「ここはエルグランデ王国始まりの地よ。魔物の時代に逆戻りさせてなるものですか」
雄々しく宣言するベルシエラに、居並ぶ騎士と魔法使いが思わず拳を固めた。
ちょうど休憩のローテーションを決め終わった首脳陣に、ベルシエラが近づいた。
「お、そっちも終わったか」
隊長が気軽に声をかけてくる。
「はい。ギラソル領から来た人員の半分で、ヒメネス領に行って来ます」
「ヒメネス領に?」
隊長は植物の魔物を発見した経緯を聞いていた。
「少人数じゃ危険だろ?」
「ええ。でも人員は全体的に足りないのでそれ以上連れて行くのは、ちょっと。せめて魔物討伐隊からひとりお貸し頂けると助かるのですが」
ベルシエラは魔物討伐隊長に植物の魔物について説明をする。
「回り道にはなるが、カチアを連れて行くのがいいだろう。聞いた感じでは砦も安定したみたいだしな」
カチアの見た渓流の魔物とヒメネス領の魔物は似ているのだ。確かにカチアは適任かも知れない。
「証拠隠滅されている可能性が高いから、キャンベル隊員も連れて行くといい。キャンベル!」
「はーい」
討伐隊長に呼ばれて、ガヴェンの婚約者アイラが手を止めてやって来る。
「場所の記憶を呼び起こして記録する装置は持ってきてるな?」
「思い出見える君3号なら持って来てますよ」
アイラは頭につけていたヘアバンドのようなものを目の位置まで下ろした。
「村の記録しときます?隊長」
「いや、ギラソル魔法公爵夫人に同行して、ヒメネス領の記録を撮ってきて欲しいんだ」
「はーい」
ベルシエラたちは砦でカチアを拾うと、一路ヒメネス海岸へと向かう。アルトゥールが志願してくれたので、飛竜も三騎行くことになった。
「何があるか分かりませんから、奥方様は魔法を温存しておいて下さい」
3人の飛竜騎士に3名ずつ乗せて貰い、雪原を颯爽と飛び越える。難なく海岸へと到着し、一行は洞窟の入り口付近へと降り立った。
「魔法の壁は解除されてるわね」
案の定、証拠は残らず消し去られているようだ。
「新たな罠が仕掛けられているかもしれませんよ」
アルトゥールは慎重である。
「そうね。気をつけながら入ってみましょう」
ベルシエラを先頭にして、総勢12名が海岸の洞窟に足を踏み入れた。
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続きます




