2 私は森で暮らす少女
部屋は質素な造りであった。天井はさほど高くない。赤毛の男性と金髪の青年は小柄なので、特に窮屈そうにも見えない。
部屋の中にはベッド、小机と丸椅子、円い小皿に乗った光る石、水差しと深鉢、櫛と畳んだ布があった。石は乳白色で拳大だ。柔らかな白い光を放っている。
壁の一面には木の杭が何本か打ってある。ハンガーはなく、シンプルなチュニックと細身のズボン、大ぶりの巾着袋、帽子が直に掛けてあった。
小机が寄せられた壁には鏡がある。ベッドの脇には窓があり、袖壁には弓に箙、そしてナイフが杭からぶら下がっている。窓は観音開きの鎧戸付きだ。今は開け放たれていて、窓の外には鬱蒼とした森が広がっていた。
「それじゃベルシエラ、支度して早くこいよ」
朗らかな金髪青年が言う。
「朝ごはん冷めちゃうよ」
金髪女性はにこやかに言い置いて、部屋を出て行く。
「あんまり寝坊してると、ベルシエラの分も食っちまうぞ」
赤毛男性は悪戯っぽく笑うと、青年と一緒に去って行った。美空は一言も発しないまま、3人の背中を見送る。
家族らしき3人が部屋からいなくなると、美空は簡素なベッドを下りる。布目の粗い灰色の服を着ていることに気がついた。長袖で襟はない。丸首の膝丈ワンピース型のパジャマだ。
ベッドの下を覗くと、ベルトバックルで留める灰色の革ブーツが倒れている。ブーツの隣りには手編み靴下が並ぶ。美空はとりあえず裸足で、水差しと小机のある壁際へと向かう。
「綺麗な子ね」
壁面の鏡に映る姿を見て、美空は思わず微笑む。鏡に映る姿は、ゆるく波打つ黒髪に緑がかった藍色の瞳をした少女だ。しっかりと骨太な首と肩が、鼻筋の通った美しい顔を支えている。
凛々しい眉と上向きにカールした長いまつ毛が意志の強さを表している。肉付きのよい頬は血色がよい。すんなり伸びた手脚は仔鹿のようにしなやかである。光があまり届かない森暮らしの為なのか、日焼けは目立たなかった。
(お腹空いたな)
美空は手早く身支度をする。扉の向こうは暖炉のある小部屋だった。三方に扉がある。暖炉の正面にひとつ、両側に二つずつ。床には地下室の入り口らしき蓋が見える。
「やっと来たな」
金髪青年が明るく声を掛けてくる。
「さあ、食べよ」
女性は優しい笑顔を絶やさない。
「ほら、早く座りなさい」
赤毛男性も陽気な声音で促す。テーブルには、直に置かれた円く平たいパンのようなものが見える。その上に、薬草や木の実と一緒に焼いたぶつ切り肉が数個載せてあった。
(脂が染み込んで美味しそう)
中央にある木をくり抜いた器では、赤黒いジャムが甘酸っぱい匂いを漂わせていた。こちらも食欲をそそる。
ベルシエラと呼ばれた美空が空いた席に座ると、赤毛男性が宣言する。
「森の恵みに感謝。いただきます」
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続きます