199 作戦会議
ガヴェン・スチュアート・ウォルター・ファージョンは、古代から続く語り部の一族出身である。ファージョン魔法公爵家の始祖は、エルグランデ建国の功臣2名のうちひとりでもある。
現代のファージョンは、エルシー・ラナ・メリージェーンの教えの下に国内外の忘れられた歴史を語り継ぐ一族だ。ガヴェンはその嫡孫である。
「ガヴェン、どういうことか話してくれる?」
「たいしたことじゃないんですが、かつて月の民が暮らした地だから、土地に浄化の魔法が残ってるんじゃないですか?触れる程度じゃ魔物の毒には負けないのでしょう」
魔物討伐隊長もいるので、珍しくガヴェンが丁寧な言葉使いで話をした。
「なるほどな」
巡視隊長が言った。
「攻撃を防ぐまでじゃないなら、盾に利用は出来ないか」
「そうですな。対応は今まで通りに致しましょう」
新しい情報ではあったが、直接役にたつことではなかった。
「増殖速度には影響があるんじゃないかしら」
ベルシエラは思いつきを口に出す。実験記録では、森に放した魔物は研究室でのデータより繁殖率が低かった。個体数は思うように増えていかなかったのだ。
「研究所の檻の中より、森の中の方が繁殖させにくかったのは浄化の魔法も影響したからかもしれない」
「連中もそれには気づいていただろうが、この1週間程度で急に増えたのはなんでだ」
討伐隊長が低く唸る。
「やり方を変えたんだと思います」
ベルシエラには思い当たる節があった。
「セルバンテス本家が気力を取り戻し、魔法酔いの調査を始めたから、ヒメネス一族が国から叛逆者として検挙される危険が出ました。それで焦ったエンリケが計画を急進させたんだと思うんです」
「それは考えられますな」
プフォルツ魔法公爵が言った。
ベルシエラは結論を述べた。
「自然に増加したような擬装をするのをやめて、研究所でどんどん増やして森に放ったんじゃないかしら」
今年になって、研究所で再生と繁殖をさせる頻度が極端に増えていた。
「記録から見てもその可能性は高いんです」
「なりふり構わなくなったってことか」
巡視隊長が眉根を寄せた。
「卑劣な」
アルトゥールは一言漏らすと、口を一文字に引き結ぶ。
「予定通り、研究所での増殖率を元にしたシフトにしよう」
「賛成です。いつ環境に適応したり突然変異が起きたりするか分かりませんからね」
討伐隊長の意見に、巡視隊長が肯首した。ベルシエラとアルトゥールもベテランの決定に従う。
「明日には飛竜の増援部隊も到着することでしょう」
「ありがとうございます。心強いわ」
ベルシエラは連れてきた騎士と魔法使いを見回した。ギラソル領の黄金の太陽騎士団と白銀の月魔法団である。叛逆者や被害者として数はかなり減っている。城に残した者もいるので、ここまで連れてこられたのはごく僅か。
「みなさん、ギラソル領の者だけで少し話をしたいのですが、お許しいただけますか?」
ベルシエラは首脳陣に許可を求めた。
「お許しだなんて。ここは貴女方の領地でしょう?」
討伐隊長は即答した。
「我らは一族の秘密を聞くわけに行きませんよ」
アルトゥールは堅苦しい表現で快諾した。
「聞くまでもない」
巡視隊長はニッと笑った。
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