198 ベルシエラは適任者に恵まれる
3人組の騎士は、相変わらず順番を守って発言する。
「その爺さんなら知ってますぜ」
ノッポが言うと、ヒゲが引き継ぐ。
「怪しい動きは見たことねっす」
その後にコデブが付け加える。
「騎士に魔法を向けたりしねぇすよ」
最後は3人で声を揃えた。
「信用できる爺さんっす」
ベルシエラはにこりと笑って礼を言う。
「ありがとう。参考になったわ」
ヴィセンテはベルシエラから説明を聞くと、頷いた。
「その人にも浄化を覚えて貰おう」
「賛成よ。エルナン、引き継ぎ出来る?」
「やってみます」
「そしたら、少しここで待っててね」
ベルシエラは急いで老魔法使いを連れてくる。老人もすんなり浄化を身につけた。
「これで3人。私の方法は、副作用が出てないか確認してからね」
砦で試した体内の毒だけを焼く魔法の経過を見るため、ベルシエラも城に戻ることにした。
「それじゃあ、皆さん、またね。いつもありがとう」
幽霊たちはワイワイと騒ぎながらベルシエラたちを見送った。
ベルシエラの魔法もうまくいったようだ。新しい魔法のため浄化の魔法ほど信頼は出来ないので、少しずつ使用範囲を広げていく計画を立てる。それでも比較的軽症の患者は引き受けることが出来た。
ヴィセンテが体力を温存したため、実務にあたるのは主にエルナンと老人である。この2人は医務室や空き部屋に寝かされていた被害者たちを浄化してまわった。臨時に傷の手当を担当する人々も忙しく歩き回っている。
「ふたりとも根を詰めないで、休みながら手当てしてね」
「分かりました」
「はい」
エルナンも老人も言葉少なに返事をした。ベルシエラは砦の地下へ向かった。黒い魔法使いたちの作業記録を確認するためである。研究所だけあって、記録は詳細であった。整然と保管されていたため、必要な情報を得るのに手間はかからなかった。
情報を手に入れたベルシエラは、再び森の村へと戻る。アルトゥールとフランツの父、巡視隊、そして黒髪の戦士にも声をかけた。戦士たちは独自の行動を続けるが、情報には感謝した。
「アルトゥール殿、少しお時間をいただけますかな?」
フランツの父、プフォルツ魔法公爵が言った。
「勿論です、プフォルツ魔法公爵様」
ふたりは飛竜を含めた勤務時間の割り振りを相談する。ベテラン討伐隊長のエドムント・トニオ・フォン・プフォルツ魔法公爵が主導する。飛竜騎士アルトゥール・シャルル・クラインは、飛行部隊の立場から時々意見を述べた。
巡視隊からは隊長アレッサンドロ・ホセ・マルケス伯爵が話し合いに参加した。隊長はエルグランデ王国各地を巡る任務経験から、小さな疑問を口にした。
「これだけ魔物がいるのに、森の草木は枯れないのが不思議です」
ベルシエラも含めた3人が隊長の顔をはっと見る。
「魔物には触れただけで毒に侵される筈だけど」
ベルシエラが隊長の疑問に同意した。
「そうですな。通常の増殖地では、草木が腐食されております。討伐後は汚染地帯として新しく植物が生えるまでは封鎖されることになっておりますし」
魔物討伐隊長が言った。
「魔物の棘が刺さった木は枯れているわ」
ベルシエラが指摘する。
「ここは月の民の領域に近いだろ?」
ガヴェンが近づいてきて、ひょいと口を挟んだ。語り部の民ファージョンの意見に、皆が耳を傾けた。
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