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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第十一章 魔法使いの末裔たち

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193 森の村人を救助する

 ベルシエラが戦列を跳び越えて最前列に躍り出る。


「おいっ!」

「邪魔だ!」

「下がれ!」


 討伐隊員が怒号を上げる。だが、その語尾が消えるより早く、彼らの視界が開けた。押し寄せる魔物と毒針で隠されていた森の景色が見えてきた。


「熱っ」

「おい、草や葉っぱが焼けてるぞ」

「ふざけないでよ。髪が焦げたわ」


 攻撃の炎には人体も焼けるのだ。魔物討伐隊員は恨みがましくベルシエラを睨む。


 ベルシエラは身を低くしてナイフを顔の前に構えている。手首を柔軟に動かすと、青い炎が生き物のように魔物の群の中を這い回る。腕全体は固定した状態で肘を回転させると、ベルシエラの前に半円状の空間が出来上がった。魔物は灰となり灰は消滅した。



 魔法の刃はその場の木々も切り倒した。枝いっぱいに魔物を乗せた木々がドサリと音を立てて横たわる。ベルシエラは木ごと棘の魔物を焼き捨てた。


「このくらいなら木がなくなっても生態系に影響はないでしょ」


 美空だった時の感覚で、大規模な伐採や焼き討ちには気が進まないのだ。


「セイタイケイ?」


 フランツの父が率いる魔法討伐隊員たちには、何のことやら分からない。黒髪の戦士たちはハナから興味がなくて聞いていない。巡視隊の面々も初めて聞く言葉だった。


「この森がこの森のままでいられるってことよ」

「へー」


 一同にはやはり理解が出来なかったが、漠然と環境保全の精神だけは伝わった。



 ベルシエラを見下していた討伐隊員たちも、流石にこの荒技を目の当たりにしては黙るしかない。早々に巻き込まれない位置まで退がる。


 巡視隊は安全圏で魔物と戦っている。黒髪の戦士たちは相変わらず自分達のペースで魔物を処理していた。


「このくらいの広さなら、3回程度で全員上空に上げられるでしょ」


 森の村の人口は100人程度である。数人ずつ炎の球に乗せて運ぶので、ひとつずつ上空へ運ぶと時間がかかる。一度に幾つかの球を打ち上げれば短い時間ですむ。その時木々にぶつからないように場所を開けだのだ。


「それじゃ、お城に連れて行くわね」


 村人全員を空に逃すと、ベルシエラも飛び立つ。



 ベルシエラは移動しながらヴィセンテと相談した。


(エンツォ、円舞室か大食堂を開けられないかしら?毛布のストックがあればもっと良いんだけど)

(村人は大勢助かったの?)

(ええ。黒髪の一族がいち早く守ってくれていたみたい)

(お礼を受けてはくれないだろうなあ)

(心苦しいけど、彼等が立ち去る前に言葉でだけでもお礼を伝えたいわね)

(間に合うと良いんだけど)


 戦士たちは用が住めば次の被災地に向かうだろう。魔物の被害が大きい場所を感知して移動するのだ。彼等に定住地はなく、常に旅の空だ。彼等は、魔物から人を守るのは使命だと思っている。感謝されても戸惑うだけだった。エルグランデ王国に住む他の人々とは価値観が全く違うのだ。



(ベルシエラ、お城に寄る?)


 ヴィセンテは期待を込めて聞いてくる。


(ごめんなさい、私は始まりの洞窟に行くわ)

(何か気になることがあるの?)


 ヴィセンテはあからさまに落胆の色を見せた。ベルシエラはズキンと胸が痛む。すぐにでも慰めたいが、ぐっと堪えて計画を続行した。


(ええ。浄化の魔法を探しに行くのよ)


お読みくださりありがとうございます

続きます

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