180 賑やかな小隊
ベルシエラが1階と2階の間を繋ぐ階段で生存者を助けていると、入り口の方で人の気配がした。それも1人ではない。
「カチア隊長!ちょっと、危ないですって!」
「何を言う!魔法が機能していると言うことは、中に生存者がいる可能性が残ると言うことだ!」
「しかし触れただけで魔物が消し炭になってますよ?」
「消し炭どころか消滅してますが?」
「臆病者め!炎の壁如き、恐るるに足りず!」
「ええええ」
「俺燃えかすになりそう」
「魔法使えない俺たちはどうすんですか」
ワアワアと賑やかな言い争いが始まった。
「つべこべいうな!続け!」
「あああ、中の様子も分かんないのに」
「ん?貴様、魔法使いの癖に上級者に逆らうのか?」
「部下の適性と技量を測るのも上級者や上官の勤めでしょうよ」
「減らぬ口だな!兎に角突破する!」
喚き合いながらも、炎の壁の前で魔物を捌いている。たいした腕前の小集団だ。
「ひでえ」
「結局こうなるのかよ」
「全くいつもいつも」
「俺この戦いが済んだらカチア隊辞めるんだ……」
「バカ!いらんフラグたてんな」
「それ絶対長生きして死ぬまでカチア隊にいるやつ」
「しかも俺ら全員いるやつ」
「黙れ!ボンクラども!ゆくぞ!」
見れば揃いの紋章を付けた10人ほどの小隊である。剣と杖と蔦を組み合わせたエルグランデ王室の紋章から、蔦の葉だけ抜き出した魔物討伐隊の紋章である。
先頭を務めるのは、消し炭色のごわついた髪を撫で付けて束ねた厳つい女性だ。同じ女武者でも優雅なソフィア王女とは真逆のタイプである。手袋を見れば、甲にプフォルツ魔法公爵家の本と羽の組み合わせ紋が認められる。
「ほら、重ねがけしてやるから口を閉じてろ」
彼女は手にした本を掲げて、温かみのある茶色い光の雨を降らせた。防護の光で全員を包んだのである。
呼ばれた名からも分かることだが、この隊長は次期プフォルツ魔法公爵だ。当代きっての女傑、カチア・ソフィア・フォン・プフォルツである。父エドムント・トニオの跡を継ぎ、魔物討伐隊長も引き継ぐことが決まっている。巡視隊員フランツ・ヘルベルト・フォン・プフォルツの姉でもある。
ベルシエラは負傷者を入れた炎の球を階段付近に浮かべたまま、カチアの方へと近づいた。
「私はギラソル魔法公爵家当主の妻、ベルシエラ・ルシア・セルバンテスです。カチア・プフォルツ殿とお見受け致しますが」
「おっ?ベルシエラさん。聞きしに勝る凄腕ですねぇ」
「ありがとうございます。カチア殿に教えていただきたいことがございます」
2人の会話も、魔物をバッタバッタと斬り伏せ薙ぎ倒し消滅させながらである。カチアたちは、魔物が殺到する入り口の壁を強引に突破していた。
ベルシエラは当主夫人なので、次期当主のカチアは敬語を使う。
「隊長がまともな言葉遣いしてる」
「すげえ」
「お前ら煩い。今話し中だ」
カチアの一喝で隊員は黙る。
「で、なんです?」
「植物の魔物について知りたいことがありまして。実はヒメネス領で、魔法酔いを引き起こす奇妙な果実を見つけたんです」
「ヒメネス領の奇妙な果実!」
「やはりご存知でしたか」
プフォルツは魔物の知識が豊富な一族だ。ただ討伐特化なので、加工された毒への対処方法には疎い。そもそも魔物を加工して毒を抽出する研究は、古代エルグランデ王国時代の遺物だ。今では失伝している。
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