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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第十章 黒い魔法使いたち

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180/247

180 賑やかな小隊

 ベルシエラが1階と2階の間を繋ぐ階段で生存者を助けていると、入り口の方で人の気配がした。それも1人ではない。


「カチア隊長!ちょっと、危ないですって!」

「何を言う!魔法が機能していると言うことは、中に生存者がいる可能性が残ると言うことだ!」

「しかし触れただけで魔物が消し炭になってますよ?」

「消し炭どころか消滅してますが?」

「臆病者め!炎の壁如き、恐るるに足りず!」

「ええええ」

「俺燃えかすになりそう」

「魔法使えない俺たちはどうすんですか」


 ワアワアと賑やかな言い争いが始まった。


「つべこべいうな!続け!」

「あああ、中の様子も分かんないのに」

「ん?貴様、魔法使いの癖に上級者に逆らうのか?」

「部下の適性と技量を測るのも上級者や上官の勤めでしょうよ」

「減らぬ口だな!兎に角突破する!」


 喚き合いながらも、炎の壁の前で魔物を捌いている。たいした腕前の小集団だ。


「ひでえ」

「結局こうなるのかよ」

「全くいつもいつも」

「俺この戦いが済んだらカチア隊辞めるんだ……」

「バカ!いらんフラグたてんな」

「それ絶対長生きして死ぬまでカチア隊にいるやつ」

「しかも俺ら全員いるやつ」

「黙れ!ボンクラども!ゆくぞ!」



 見れば揃いの紋章を付けた10人ほどの小隊である。剣と杖と蔦を組み合わせたエルグランデ王室の紋章から、蔦の葉だけ抜き出した魔物討伐隊の紋章(クレスト)である。


 先頭を務めるのは、消し炭色のごわついた髪を撫で付けて束ねた厳つい女性だ。同じ女武者でも優雅なソフィア王女とは真逆のタイプである。手袋を見れば、甲にプフォルツ魔法公爵家の本と羽の組み合わせ紋が認められる。


「ほら、重ねがけしてやるから口を閉じてろ」


 彼女は手にした本を掲げて、温かみのある茶色い光の雨を降らせた。防護の光で全員を包んだのである。


 呼ばれた名からも分かることだが、この隊長は次期プフォルツ魔法公爵だ。当代きっての女傑、カチア・ソフィア・フォン・プフォルツである。父エドムント・トニオの跡を継ぎ、魔物討伐隊長も引き継ぐことが決まっている。巡視隊員フランツ・ヘルベルト・フォン・プフォルツの姉でもある。



 ベルシエラは負傷者を入れた炎の球を階段付近に浮かべたまま、カチアの方へと近づいた。


「私はギラソル魔法公爵家当主の妻、ベルシエラ・ルシア・セルバンテスです。カチア・プフォルツ殿とお見受け致しますが」

「おっ?ベルシエラさん。聞きしに勝る凄腕ですねぇ」

「ありがとうございます。カチア殿に教えていただきたいことがございます」


 2人の会話も、魔物をバッタバッタと斬り伏せ薙ぎ倒し消滅させながらである。カチアたちは、魔物が殺到する入り口の壁を強引に突破していた。



 ベルシエラは当主夫人なので、次期当主のカチアは敬語を使う。


「隊長がまともな言葉遣いしてる」

「すげえ」

「お前ら煩い。今話し中だ」


 カチアの一喝で隊員は黙る。



「で、なんです?」

「植物の魔物について知りたいことがありまして。実はヒメネス領で、魔法酔いを引き起こす奇妙な果実を見つけたんです」

「ヒメネス領の奇妙な果実!」

「やはりご存知でしたか」


 プフォルツは魔物の知識が豊富な一族だ。ただ討伐特化なので、加工された毒への対処方法には疎い。そもそも魔物を加工して毒を抽出する研究は、古代エルグランデ王国時代の遺物だ。今では失伝している。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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