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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第十章 黒い魔法使いたち

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179/247

179 ベルシエラは砦の一階を焼き払う

 ギラソル魔法公爵セルバンテスの構える黄金の太陽城から出発した3隊が目指すうち、1番近い目的地は砦である。そにはエンリケ派の魔法使い達がいる。騎士達は敵味方が半々といったところ。


(今の状況だと、ヴィセンテ派はみな暗殺されているかも知れないわね)


 魔物の再生を待って繁殖させる施設と成り果てた砦だ。ヒメネス領の陰謀が目に見える形で動き出した現在、エンリケに敵対する人が生かされている可能性は低い。


(どうか1人でも多く助けられますように)


 ベルシエラの分の花蜜茶は、全てヴィセンテの治療に使った。今腰に下げている水筒には疲労回復用の薬湯が入れてある。森番の妻でベルシエラの養い親サラのレシピだ。花蜜茶ほど劇的な効果は望めないが、巡視隊々長が教わりたがったくらいには効き目がある。気休め程度には使えるだろう。



 砦の中には惨状が広がっていた。紫色の棘が至る所に散乱し、棘に刺された騎士や魔法使いが折り重なるように倒れ臥していた。中には針山の如く大量に棘が刺さった無惨な遺体もあった。


 森から入り込んだ魔物と再生した魔物がうろついている。ベルシエラを見ると一斉に棘を飛ばして来た。砦の扉は壊れている。このままではとめどなく魔物がなだれ込んで来てしまう。


(エンツォ、砦に着いたわ)

(どう?)

(酷いものよ。動いているのは魔物だけ)

(駄目だったか)

(とりあえずここの魔物は焼いてくわね)

(逃げなくて大丈夫?)


 ヴィセンテの出す心配そうな声にベルシエラは力を得た。


(ありがとうエンツォ。大丈夫よ!)



 ベルシエラは体の前に手を突き出した。炎が入り口へと飛んでゆく。扉のない縦長の穴だけになっていた場所をベルシエラの炎がぴたりと塞いだ。押し寄せていた魔物の一群は次々に炎に飛び込む。


 隠れていた外の森陰から飛び出して砦に入ろうとした群れは、ベルシエラの炎で自動的に焼き払われてゆく。屋内では休みなく放たれるベルシエラの矢が、机や椅子の陰からはみ出している魔物を射抜く。鏃に燃える魔法の炎に焼かれ、魔物は瞬く間に数を減らした。


 ベルシエラは逐一ヴィセンテに報告する。森の真ん中で群れに囲まれた時に比べれば、たいした余裕である。ベルシエラはひとりだが、砦の壁は強固だ。窓は少なく塞ぐのは容易である。侵入さえされなければ、数の決まった魔物などベルシエラの敵ではなかった。



(一階の魔物はだいたい終わりよ)

(もう?)

(入り口と階段からの降り口は炎で塞いだから、一階に入り込もうとする分は自動で処理出来るわ)

(凄いねぇ、シエリータ。ほんとに素敵なひとだなぁ)

(うふふ、ありがとう。私は2階に移動するわね)


 ベルシエラは青い炎を纏って階段に差し掛かる。2階へと上がる階段にも、地下へと降りる段々にも、棘と遺骸ばかりが見えた。


「あっ、この人はまだ息があるわ」


 こうした混乱の中では、遺体や物の下敷きになって助かるのはままある事だ。死の香りが充満した砦でも、そんな幸運児は幾人かいた。


 ベルシエラは上に載っている死骸を取り除く。今は丁寧に寝かせて埋葬する暇がない。息絶えた者は傍へ退けて生存者を掘り出してゆく。指先から出した魔法の炎で刺さった棘を抜き、魔物の毒を処理してゆく。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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