表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第十章 黒い魔法使いたち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

178/247

178 ベルシエラは麓の森へと出発する

 シャルル翁が持たせてくれた花蜜茶の効果には目を見張る物がある。大きめのマグ一杯分ほどを水筒から飲むと、呼吸は楽になり吐き気や関節の痛みも消えた。ヴィセンテは長年盛られた毒と掛けられた呪いの影響を脱したのである。


「ほう、これは凄いな。花蜜茶とやらのことはまるで知らなかった。霊獣の大地で産する物は、これまで秘されて来たからなあ」


 杖神様も驚嘆している。小説「愛をくれた貴女のために」でも描写がなかった秘薬である。クライン家と関わる事がなかった一周目のベルシエラも知ることが出来なかった飲み物だ。


「まあ、こんなお茶があったのねぇ。あっという間に効果が現れたわねぇ。素晴らしいお薬だわ」


 先代夫人も空中に浮かびながらしきりに感心している。



 ヴィセンテの血行は目に見えて良くなった。青褪めた顔に血の気がさして、陰気な雰囲気が払拭された。頬はこけたままだったが、顔色ひとつでかなり印象が良くなる。活発に血が巡り始めたので、目の周りに目立っていた黒ずみが消えた。


 ヴィセンテは筋肉も脂肪もほとんどなく、元来彫りの深い顔立ちである。落ち窪んだ眼窩ばかりはどうしようもない。暗く澱んだ目付きには婚礼の夜に希望が灯った。その僅かな気力が体力を得て息を吹き返した。


 復讐を遂げた意志の強さが魂の窓から覗いている。ギラソル領の厳しい現状から眼を逸らすことなく、勇気を持って向き合っていた。花蜜茶を飲んだ後、ヴィセンテの見た目は幽鬼から猛禽へと進化した。



「それじゃあ私は、外の様子をひと通り観て来るわね」


 ベルシエラは、3つに分けたギラソル領の討伐隊を順に見に行くことにした。状況の把握と怪我人の回収が望まれる。可能ならば村人たちの避難もしたいところだ。


「いってらっしゃい、気をつけて」


 ヴィセンテはベルシエラの助けを借りて起き上がる向きを変えて立ちあがろうとするのをベルシエラが押し留める。


「立たなくていいわよ。体力は温存しなくちゃ」

「そうだね。いざって時に寝込んでたら何も出来ないよね。ありがとう」


 花蜜茶で回復したとはいえ、基礎体力はまだ病人のままなのだ。せっかく戻った体力も、すぐに使い果たしてしまいそうだった。そこでヴィセンテはベッドに腰掛けたまま、ベルシエラを抱きしめた。


 筋力がないので、相変わらず弱々しいハグである。だが、それだけで疲れてしまうほどのやつれ方ではなくなっていた。ベルシエラは恥ずかしさと喜びで居心地が悪い。


「気をつけてね。くれぐれも無理はしないようにね」

「心配しすぎよ。兎に角行ってくるわ」


 ベルシエラは抱きつく腕にぎゅっと力を込めた。ヴィセンテは首を僅かに動かして、ベルシエラの頬に軽い口付けを落とす。みるみる新妻の首から額が真っ赤に茹で上がった。


「エンツォも、無理しないようにね?」


 照れ臭さを誤魔化すように、ベルシエラは少し早口になった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ