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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第十章 黒い魔法使いたち

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175 髪飾りの石

 飛竜と騎士と魔法使いが3つの小隊に分かれて雪山を下る。ベルシエラはヴィセンテの側に残った。到着したばかりで衰弱しているユリウスは医務室で寝ている。連れて来てくれた黒髪の戦士はギラソル領の魔物討伐隊が出陣するのを見送ってくれた。


「あの、失礼でなければお礼をしたいのですが」


 皆の姿が見えなくなると、ベルシエラは黒髪の戦士に申し出た。エンリケが見張るように側で微笑んでいる。黒髪の戦士は、硬い表情を崩さない。


「いえ、今はそれどころではありません」


 戦士はベルシエラに腹を立てているようだ。非常時だというのに、呑気にお礼の申し出などをしていること。ユリウスを見つけ出さなかったこと。その2点で、ベルシエラを無能な女主人だと見下した。



 ベルシエラは悔しかった。ユリウスの件は尤もである。探さなかっただけではない。魔物と戦った混乱から、ひとり足りないことに気が付かなかった。大失態である。


 もし黒髪の戦士たちがいなかったならば、今ごろユリウスは魔物に踏みつけられて森の中に倒れ臥していたことだろう。


「心より御礼申し上げます。危険な状況でお手間をとらせてしまい、お詫び致します」


 ベルシエラは誠実に謝罪し、感謝した。ヴィセンテも頭を下げる。


「では、私はこれで」


 黒髪の戦士が踵を返す。



「あっ、お待ちくださいませ。ひとつだけお尋ねしたいことがございます」


 ベルシエラは慌てて呼び止めた。この機を逃したら一生分からなくなるかもしれない事があるのだ。


「この石をご存じありませんか?」


 首元から取り出した髪飾りを戦士に見せる。ベルシエラがノコギリ鳥のいる森で倒れていた時に着けていた髪飾りである。魔法使いが触ると透明になる石がひとつ付いている。


 戦士は冷たい眼差しでちらりと髪飾りを見た。


「それが何か?」

「行き倒れていた幼い日に私が身につけていた物なんです。出自の手掛かりに、と養い親が大切に取っておいてくれたんです」

「よくある子供の髪飾りだ。気の毒だが、そんな物一つで誰の子かなんて分からないよ。一体どれだけの子供が魔物退治で逸れると思っているんだ」


 ヴィセンテは目つきを鋭くした。


「お客人、その言い方はあんまりではございませんか?」

「何がだ」


 黒髪の戦士にはヴィセンテの気持ちは伝わらない。考え方も感じ方も違う。彼らはどうやら、有史以前より魔物の気配を追っては死と隣り合わせの討伐を行って来た集団らしかった。


「いいのよ、エンツォ」


 ベルシエラは庇ってくれる夫を宥める。そして戦士には静かに言葉を掛けた。


「お引き留めして失礼をば致しました。私もすぐに森へ下りる予定です」


 戦士はまた苛立ちを見せた。だが、もう何も言わずに背中を向けて立ち去った。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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