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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第九章 一匹たりとも魔物を逃すな

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174 6人目の到着

 敵味方の判断が付きかねる魔法騎馬隊が森に入るまで、もう僅かしか時間が無さそうである。


「飛竜騎士の皆様、魔法騎馬隊の迎撃に力をお貸しいただけますでしょうか?」


 ベルシエラはアルトゥールたちに具体的な助力を求めた。


「騎士ブランはクライン領に状況を報告し、適宜増援部隊を連れて参ります。いいな?ブラン?」

「はい!」

「残りは3名ずつに分かれ、森の魔物と雪原からの魔法騎馬隊をそれぞれ担当します」


 アルトゥールはその場で自分を含む3名ずつに分けた。



「ありがとうございます、クライン様。エンツォ、私たちの戦力は3つに分けられるかしら?」

「いいよ。後で編成の相談をしよう」

「無理はしないでよ?」

「分かってるよ。まだ大丈夫だ」


 セルバンテス家の戦力は、城に残る者は別として3つの小隊に分けた。森に行く者、砦に行く者、雪原からの魔法騎馬隊を迎撃もしくは援護する者。ヴィセンテはアルバロとイグナチオの意見を聞きながら、今黄金の太陽城にいる者たちを振り分けてゆく。


「ざっとこんなもんかな?」

「各隊に魔法使いが少なくともふたりはいると良いですね。」


 エルナンが発言した。エンリケが厳しい表情でエルナンに顔を向ける。


「君はまだ見習いだろう。出しゃばるでない」



「いいえ、叔父様。エルナンも魔物の群れを相手にしましたから」


 ベルシエラはエンリケに口を出させないように立ち回った。


「最低でもふたりずつはいなくちゃ。相手は魔物ですからね。魔法しか効かないのですもの」

「魔物は魔法でとどめを刺さないと再生してしまうんだろう?」

「そうよ、エンツォ。魔法使いなしの編成は考えられないわ」


 今信頼できるのは、ベルシエラとここにいる見習いエルナン、休憩中のガヴェンとフランツだ。


「エルナン、後で編成を手伝ってくれる?」


 ベルシエラは真剣に依頼した。エルナンは見習いなので萎縮した。


「はい。見習いですから、あまり深くは存じませんが、お役に立てるなら」


 エルナンは控えめながらも快く了承した。



 夕食の後で医務室を訪ねたベルシエラは、隊長以下5名を見回した。


「あら?ユリウスは?」


 決死の脱出劇を演じた森で、巡視隊にひとり欠けていたことに気が付かなかった。


「ユリウスの奴は、魔物と戦っているうちに森ではぐれてしまいました」

「そんな。無事だと良いんだけど」


 巡視隊6人目のメンバーユリウスは、残念ながら生死不明の状態だった。


「ええ。祈るより他ありません」


 隊長は辛そうに俯いた。


 そこへ、ひとりの騎士が入って来た。城に2人の人が到着したというのだ。急いで城門へと駆けつける。ひとりは黒髪の巻毛で元気そうである。もうひとりはユリウスだった。傷つきやつれてはいるが、命に別状はなかった。



 翌朝、ベルシエラたちは城の前庭に集まっていた。


「どの隊も油断せず、無茶をせず、無事で帰って来ましょう」


 ベルシエラが出発の挨拶をする。


「みんな、準備はいい?」


 ヴィセンテの問いには、応の答えが返って来た。


「それじゃ、みんな、いってらっしゃい。一匹たりとも、魔物を逃すな!」

「おおおおー!」


 ベルシエラの慎重さとはうらはらに、一同は決意を固めていた。澄み渡る冬空に、ギラソル魔法公爵家の騎士と魔法使いたちが鬨の声を上げた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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