174 6人目の到着
敵味方の判断が付きかねる魔法騎馬隊が森に入るまで、もう僅かしか時間が無さそうである。
「飛竜騎士の皆様、魔法騎馬隊の迎撃に力をお貸しいただけますでしょうか?」
ベルシエラはアルトゥールたちに具体的な助力を求めた。
「騎士ブランはクライン領に状況を報告し、適宜増援部隊を連れて参ります。いいな?ブラン?」
「はい!」
「残りは3名ずつに分かれ、森の魔物と雪原からの魔法騎馬隊をそれぞれ担当します」
アルトゥールはその場で自分を含む3名ずつに分けた。
「ありがとうございます、クライン様。エンツォ、私たちの戦力は3つに分けられるかしら?」
「いいよ。後で編成の相談をしよう」
「無理はしないでよ?」
「分かってるよ。まだ大丈夫だ」
セルバンテス家の戦力は、城に残る者は別として3つの小隊に分けた。森に行く者、砦に行く者、雪原からの魔法騎馬隊を迎撃もしくは援護する者。ヴィセンテはアルバロとイグナチオの意見を聞きながら、今黄金の太陽城にいる者たちを振り分けてゆく。
「ざっとこんなもんかな?」
「各隊に魔法使いが少なくともふたりはいると良いですね。」
エルナンが発言した。エンリケが厳しい表情でエルナンに顔を向ける。
「君はまだ見習いだろう。出しゃばるでない」
「いいえ、叔父様。エルナンも魔物の群れを相手にしましたから」
ベルシエラはエンリケに口を出させないように立ち回った。
「最低でもふたりずつはいなくちゃ。相手は魔物ですからね。魔法しか効かないのですもの」
「魔物は魔法でとどめを刺さないと再生してしまうんだろう?」
「そうよ、エンツォ。魔法使いなしの編成は考えられないわ」
今信頼できるのは、ベルシエラとここにいる見習いエルナン、休憩中のガヴェンとフランツだ。
「エルナン、後で編成を手伝ってくれる?」
ベルシエラは真剣に依頼した。エルナンは見習いなので萎縮した。
「はい。見習いですから、あまり深くは存じませんが、お役に立てるなら」
エルナンは控えめながらも快く了承した。
夕食の後で医務室を訪ねたベルシエラは、隊長以下5名を見回した。
「あら?ユリウスは?」
決死の脱出劇を演じた森で、巡視隊にひとり欠けていたことに気が付かなかった。
「ユリウスの奴は、魔物と戦っているうちに森ではぐれてしまいました」
「そんな。無事だと良いんだけど」
巡視隊6人目のメンバーユリウスは、残念ながら生死不明の状態だった。
「ええ。祈るより他ありません」
隊長は辛そうに俯いた。
そこへ、ひとりの騎士が入って来た。城に2人の人が到着したというのだ。急いで城門へと駆けつける。ひとりは黒髪の巻毛で元気そうである。もうひとりはユリウスだった。傷つきやつれてはいるが、命に別状はなかった。
翌朝、ベルシエラたちは城の前庭に集まっていた。
「どの隊も油断せず、無茶をせず、無事で帰って来ましょう」
ベルシエラが出発の挨拶をする。
「みんな、準備はいい?」
ヴィセンテの問いには、応の答えが返って来た。
「それじゃ、みんな、いってらっしゃい。一匹たりとも、魔物を逃すな!」
「おおおおー!」
ベルシエラの慎重さとはうらはらに、一同は決意を固めていた。澄み渡る冬空に、ギラソル魔法公爵家の騎士と魔法使いたちが鬨の声を上げた。
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