167 夕方の会議
ベルシエラたちが城に向かっていると、ヴィセンテから心の会話が届いた。
(シエリータ、今話せる?)
(話せるわ。エンツォ、どうしてる?)
(寝たり起きたりしてたよ。それで、何か判った?)
(ええ。私たちを救けてくれたのは、クライン魔法公爵家だったわ)
(えっ、お隣さんが?じゃあ、シエリータは今雪龍山脈の向こう側にいるってこと?)
ヴィセンテは今起きたばかりのようだ。杖神様からまだ何も聞いていないらしい。
(もうすぐお城につくわ。事情を話したら、飛竜騎士を7人貸して下さったの)
(7人も?そりゃ、隣の領で魔物が増殖してたら心配にもなるよねぇ)
(イネスとフィリパが先に帰ってる筈よ。乗せて下さったのはクライン家ご当主様のお孫様よ)
(トムに聞いてみるよ)
ヴィセンテはトムを呼んで城の状況を確認するようだ。一旦心の会話が途切れる。その間にベルシエラたちは黄金の太陽城に到着した。
飛竜騎士たちは空中で人に戻って城の前庭に下りた。するりと紐が解けるように翼ある龍の姿は人間へと変わった。正面玄関の前には、エンリケ一家が立っていた。まるで城の主のようである。
先に到着したアルトゥールから事情を聞いていたのだろうか。明らかに飛竜騎士たちの来訪を待ち構えていた様子だ。
「これはこれは、危険な道のりをよくぞご無事でおいで下さいました」
にこやかに進み出るエンリケは、ベルシエラと目を合わせようともしなかった。
そこでベルシエラもエンリケを相手にしないことに決めた。
「皆さん、当主のところへご案内致します」
当主夫人に促されたので、飛竜騎士たちはエンリケ一家に一礼して後に続く。アルバロ、イグナチオ、エルナンも気まずそうに従った。
(エンツォ、お客人を連れて行くわね)
(分かった。応接室に向かうよ)
応接室に入ると、ヴィセンテ、アルトゥール、トムの3人が絹張りのソファに座っていた。ベルシエラはヴィセンテの隣に腰を下ろす。飛竜騎士たちはアルトゥールの後ろに立ち並んだ。
疲れきった巡視隊は、挨拶もそこそこに医務室へ連れて行かれた。エンリケ一家は忌々しそうに空いている席に腰掛けた。
「叔母様とお子様は退室を」
「ヴィセンテ君、妻もこの子らも立派なセルバンテス家の人間だよ。大事な話には同席したほうがいい」
「後方支援も含めて、討伐に参加するメンバーだけで、話を致します」
ヴィセンテは突っぱねる。
「後方支援には参加するのだから」
エンリケは食い下がる。
「何をして援けると、言うのです」
「それをこれから話し合うんじゃないか」
エンリケは諭すように猫撫で声を出す。
「では、方針が決まるまでは、ご自分のお部屋で、お待ちくださいませ」
頑なに拒否するヴィセンテに、エンリケの妻が眉を寄せた。
「あら、おかしいわね?その娘は出て行かないのに?」
飛竜騎士団が一斉に発言者の方へと首を巡らせた。皆目を見開いている。中にはえっ、と声を上げた者までいた。
「ギラソル魔法公爵家当主夫人、ベルシエラは、魔法使いの陣頭指揮を、取りますので、当然、出席致しますよ」
ヴィセンテの声は息苦しそうだが落ち着いていた。その当主らしい態度にベルシエラはときめいた。
(立派な方だわ)
尊敬の眼差しを感じて、ヴィセンテはベルシエラに微笑みを向けた。
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