166 願ってもない援軍
現れた戦士たちは顔色ひとつ変えずに魔物の群れを薙ぎ倒している。
「あなた方は?」
隊長が尋ねた。
「我ら名もなき剣士の末裔、魔物の増殖を感知致せし故に助太刀の為馳せ参じた次第なり」
先頭にいた斧槍を遣う巨漢が応える。その間にも手は止めない。呼吸を乱さず、的確に魔物を仕留めてゆく。
「貴公らは疲労困憊のご様子、ここは我らにお預けなされ、しばし休まれませ」
丁寧な態度で申し出る助けを、隊長はありがたく受け入れた。
「それはなんともかたじけない」
「なんの」
斧槍の巨漢はニヤリと豪傑の笑いを浮かべる。
ベルシエラは声を失っていた。髪の色といい髪質といい、武器を包んで燃える炎の色といい、ベルシエラとそっくりなのだ。瞳の色も同じである。緑がかった藍色の眼だ。
他の者たちもその事に気づいてはいた。だがあえて口にするのは控えている。今はその時ではない。
「ベルシエラ、頼む」
隊長の言葉でベルシエラはハッと我に返った。
「はい、上昇します」
空気の球がすうっと浮上した。
「皆様ご恩は忘れません。是非黄金の太陽城にお立ち寄り下さいませ」
ベルシエラは自分とよく似た人々に深々とお辞儀をした。
「なに、礼には及びませぬよ」
斧槍の巨漢が爽やかに答えた。その後ろに従う戦士の中には、乳飲児をおぶうものもいた。年端も行かない童子もいた。ベルシエラはなんとなく、自分が行き倒れていた背景を察知した。
巡視隊の皆は、ベルシエラがノコギリ鳥の森で拾われたことを知っている。彼らにもベルシエラが森にいた理由の想像がつく。
そして、ルシア・ヒメネスの出自も。
上空に戻ると待機していた飛竜騎士たちと合流する。
「このままお城まで戻るわ。皆さんもどうぞ、カステリャ・デル・ソル・ドラドで休んで行って下さい」
「皆さん魔物と戦ってお疲れでしょう?ご遠慮なさらず背中に乗って下さいよ」
ラウール・ブランが申し出る。だがベルシエラは遠慮した。
「頼もしい味方も現れて、思ったより疲れてないのよ」
「援軍とは吉報ですね。枝が茂っているから、上からは見えませんでしたが」
「予想もしなかった方々なのよ。詳しくはお城に着いてから話すわ」
ラウール・ブランは好奇心を剥き出しにした己を恥じた。
「そうでした。ひとまずは黄金の太陽城に急ぎましょう。お言葉に甘えて、我々も寄せていただきますね」
「ええ、是非ともそうなさって。それに、クライン領はお隣ですもの。今後の対策はなるべく共同で立てたいわ」
「賛成です。お城に到着次第、若様にご進言申し上げます」
「ありがとうございます。では、出発致しましょうか」
「はい」
青い炎に包まれた浮遊する炎球を先頭にして、5頭の飛竜が晴れた空を行く。どの龍も純白で、人間体の姿は想像出来ない。みな神々しい霊獣の天翔る姿である。
ひとつ、体型だけは影響を受けるらしい。丸っこい飛竜、引き締まった飛竜、骨太な飛竜、小柄な飛竜、そして中肉中背な飛竜がいた。
よく見ると顔立ちも様々だった。排他的な態度のアルトゥールは、思い出してみればやっぱり拒絶の色を纏う顔をしていた。緊迫した戦況でありながら、ベルシエラはなんだか少し可笑しくなってしまった。
「ふふっ」
思わず漏らした笑い声を、ベルシエラは慌てて押し殺すのだった。
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