165 巡視隊はベルシエラと共闘する
巡視隊は5人とも馬から降りていた。降りているどころか、馬の姿は影も形もない。早々にやられてしまったのだろう。魔物がこの量では、馬まで守るゆとりはない。
巡視隊に魔法使いは2人である。残りの3人にも防護の魔法を纏わせなければならない。その上で絶え間なく飛んでくる毒の棘も、木の陰に隠れている魔物本体も、魔法で対処する必要があるのだ。
「砦が魔物を生んでる元凶かと思い、真っ先に叩こうと思ったんだが」
飛び上がる隙を伺いながら、隊長が言った。
「情けなくも魔物の大群に押し流されてこのザマだ」
実際、砦は遥か山の麓にある。巡視隊は森の中ほどで、視界が紫色になるほどの棘に晒されていた。次期ファージョン当主のガヴェン、当主の座は姉カチアに渡すものの、遜色のない実力者フランツ。ふたりの努力は計り知れない。
「この量相手に魔法使い2人だけでよく持ち堪えましたね」
サポートにまわる隊長、カッレ、ゲルダの3人の奮闘も忘れてはならない。魔法を節約するため、3人を覆う防護の光は毒の攻撃から守るだけだ。魔物に紛れて襲ってくる野生動物は、自力で迎撃する必要があった。
「今や普通の生き物はみんないなくなっちまった」
カッレがぼやきつつ、切り傷の多い腕を突き出す。まだ獣がいた頃に付いた傷だ。血は既に赤黒く固まっていた。腕はそのまま引き戻さずに剣を倒し、斜めに切り上げて数匹の魔物の動きを止めた。
すかさずガヴェンは指環を光らせ、まだ動いている側の魔物諸共に消し去った。その間も騎士たちは剣を振るう手を止めない。
アルバロとイグナチオも縦横に剣を振り回す。こちらにはエルナンが着く。
「へえ、やるじゃない」
ゲルダの笑みには疲労が見える。それでも笑顔を見せるゆとりが出て来た。炎の円陣が出来たことで防御に回す気力が減ったのだ。
隊長の剛腕で鋼の剣が唸る。口は厳しく引き結び、寄せ来る魔物の波を払いのけていた。フランツとガヴェンの放つ魔法の光弾が、入り乱れて後を襲う。
魔法に消えては新手が現れる森の死闘は、終わりの見えない絶望だった。巡視隊に遠方と通話する魔法はない。援軍がいつ来るのかも分からなかった。ベルシエラたちの到着はまさに暁光であった。
ベルシエラたちはただの援軍ではない。魔物の包囲を掻い潜り、上空へと脱出する。予想外の突破口を開いてくれたのだ。
「ベルシエラ、いつでも運んでくれ」
隊長が叫ぶ。
「これ以上ここにいても仕方ないよね」
ガヴェンは苦笑して、垂れ目が更に下がった。
「これじゃ援軍なんて来てもどうしようもねぇからな」
フランツは短気を爆発させるゆとりまで出て来た。それまでは苛立つ暇すらなかったのだ。
ベルシエラは弓を引く手を止めぬまま、矢を継ぐ合間に浮遊に使う炎を投げる。いつもの青い炎がぐるりと円陣の内側を走る。炎で覆われた空気の球が、巡視隊と後発のベルシエラたちを掬って浮かび上がった。
その時、見慣れない一団の戦士が魔物の塊を切り裂いて現れた。槍に弓に剣にナイフに、棍棒や棘鞭を操る者もいた。ざっと見たことろ20人余り。
武器には青い炎が点り、髪は一様に黒く波打っていた。
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