164 ベルシエラは巡視隊と合流する
ベルシエラは杖神様に状況を伝えて指示を仰ぐ。
(杖神様、ヒメネス領から騎馬魔法隊が押し寄せて来ます。棘の魔物は本体に近づけないほど大量に棘を飛ばして来ます)
(とにかく今は巡視隊を探し出して黄金の太陽城へ戻るのが良いだろう)
杖神様は、このメガロ大陸に魔物が蔓延っていた時代を生きた人だ。当時の感覚は薄れているとしても、知識は残っている。
この国で生まれる幽霊に記憶容量の心配はないらしく、死んだ時から今までの出来事を全て憶えていた。これは、魔法の影響があるからなのかも知れない。
ベルシエラは改めて飛竜騎士たちに指示を出す。
「予定通り巡視隊を探しましょう」
「了解、セルバンテス当主夫人!」
飛行隊は魔物の棘を処理しつつ、道案内の炎球を追いかける。飛竜の翼は力強い。馬車の3倍ほどの速度で森の上空を滑ってゆく。
「降りるわよ!みなさん、気をつけて」
先をゆく炎の小球がかくんと折れて下へと向かう。いよいよ巡視隊がいる位置に到着したのだ。
「俺たちは上空で待機します」
ラウール・ブランが告げた。飛竜は魔法生物だが、障害物をすり抜けたりは出来ないらしい。
「分かったわ。ありがとう」
砦の騎士アルバロとイグナチオ、そして見習い魔法使いエルナンは森の魔物と対峙したことがある。数匹の群れ相手ではあった。だが、戦法を知らないのとは大違いである。
何より今はベルシエラの炎が毒の棘から守ってくれる。過信は禁物だが、安心感は余裕を生む。
「見えて来た!隊長ーっ!救けに来ました!」
ベルシエラは素早く矢を弓に番えると、青い炎を纏わさせる。魔法で戻る矢は素早く手に取り、再び弓を引き絞る。矢継早に射掛ければ、固まって応戦していた巡視隊の周囲に炎の円陣が作られた。
エルナンも懸命に杖を振り、円陣に沿って炎を飛ばす。棘の魔物を討伐する場合、剣士は遊撃隊である。後方に控えて棘を避け、隙を見ては前へ躍り出る。小さな群れなら広がらないように牽制する。
だが今回は大群である。騎士たちは我武者羅に斬り散らす。斬ればしばらくは仮死状態だ。再生を待たずに魔法使いの炎が焼いてゆく。
「ベルシエラ!」
巡視隊の疲れ切った顔に希望の火が灯る。
「上空にクラインの飛竜が来てくれてるわ」
「そいつぁ朗報だ!」
フランツが泥と汗に塗れた顔に白い歯を剥き出して笑った。片手には魔法媒体となる本を持ち、木の幹に似た茶色く柔らかな光を四方に飛ばしている。
「それじゃ逃げますか、隊長?」
戯けた垂れ目で問いかけるのはガヴェンだ。気取った仕草で指環に光る赤い石に口付ける。光の弾丸は魔物を襲い、次々に消滅していった。
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