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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第九章 一匹たりとも魔物を逃すな

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163 飛竜騎士団、森へ

 ベルシエラを乗せた飛竜騎士ラウール・ブランが急降下を始めると、残りの5人も続く。イネスとフィリパを乗せていた2人は、身軽になってベルシエラの両脇に並ぶ。


「ブラン殿、作戦を。私は慣れておりません」

「我らもこれ程の群れを相手にするのは初めてです」

「では、如何致しましょうか」

「今森にいる部隊を探しましょう」


 ベルシエラはほっとした。砦奪還を提案されるかとひやひやしたのである。


「ええ。賛成です。探すのは任せて下さいね」


 言うなりベルシエラは、先導役の小さな火球を森へと投げる。


「この炎が道案内してくれますよ」


 飛竜騎士たちは半信半疑で炎を追う。ギラソル領の騎士アルバロとイグナチオ、それに見習い魔法使いエルナンには、既にお馴染みの魔法であった。



 道案内の小さな火球について森に近づくと、紫色の針が飛んできた。魔物が飛竜に気がついて木に登ったのか、元々木々の枝にまで鈴なりになっていたのかは分からない。とにかく高射砲のごとく毒針が飛んでくる。


「エルナン、できる限り炎を!アルバロとイグナチオは枝を切って雪ごと魔物を落とせる?」


 ベルシエラはノコギリ鳥の群れを相手にした時のことを思い出す。森で過ごした父や兄との連携を参考にして指示を飛ばした。


(この数じゃあ弓は役に立たない)


 矢がまるで足りないのだ。戻る魔法がかけてはあるが、この大群に射掛けたら返ってくるのは折れた矢ばかりになるだろう。得意のナイフも焼け石に水だ。



「ブラン様、飛竜の方々は何がお出来になりますか?」

「浄化は出来ますが、限りはあります。お探しの巡視隊を見つけるまでは温存しましょう」


 言いながら、勢いよく羽ばたいて向かってくる毒針を吹き返した。ベルシエラの炎も毒針を焼き尽くす。エルナンは必死に真似て少しずつでも迎撃した。



(ここまで事態が悪化しているなら、エンツォは思い切って水薬(ポーション)やめたらどうかしら?トムも味方だと分かったんだし)


 どのみちベルシエラがヒメネス領に出かけたことは知られているのだ。エンリケを欺く必要は無くなった。


(杖神様!お城はまだ無事ですか?)


 この大群だ。エンリケ派でさえ砦を捨てたに違いない。魔物もエンリケ派の暗殺者たちも、城に入り込んでいる可能性は否めない。


(魔物はまだ防壁が堰き止めてはいるが、砦の連中が棘を城に持ち込んできた)

(えっ)

(取り出した瞬間に、この度城に巡らせた炎の網に包まれて灰になるから安心するがいい)

(足りなくなったら取りに行くんじゃないかしら?)


 始まりの洞窟にいた暗殺被害者たちによれば、エンリケ派の魔法使いたちは人間らしからぬ様子だったという。彼らが纏うどす黒い魔法なら、魔物の中でも平気で動き回れるのではないだろか。



(ああっ!)

(どうした?ベルシエラ!)

(杖神様!広野に雪煙が見えます)


 飛竜騎士団も雪煙には気がついていた。


「ありゃ騎馬魔法部隊だな」

「馬車も引き連れてやがる」

「援軍か?」

「恐らくは違います。ヒメネス領から押し寄せて来ますから!」


 飛竜騎士の希望は、ベルシエラの悲観的な観測そくに打ち砕かれた。

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