158 頼もしい味方
主人席を見ると、堂々たる体躯の老人が座っていた。状況から察するに、クライン魔法公爵家の当主シャルル・ルイ・クライン翁だろう。ふさふさの白髪を丁寧に撫で付けて長く垂らし、髭は綺麗に剃っている。金色の瞳は老いてなお鋭い光を放つ。
夫人は既に他界しており、隣りには息子オーギュスト・エリック・クラインと妻オルタンス・クレール・メリサンド・クラインが着席している。孫はベルシエラたちの世代だ。
クライン家は代々子供が少ない。孫世代もひとりっ子のようだ。融通の効かなそうな堅苦しい雰囲気の青年である。ベルシエラの記憶によれば、この男はアルトゥール・シャルル・クラインという名前だった。
「ようこそお客人。目が覚めて何よりです。わが城は如何かな?」
やや嗄れたシャルルの声が長いテーブルを渡ってベルシエラに届く。
「お陰様で、すっかり良くなりました。私共をお救いくださり、本当に感謝致しております」
「なんの、困った時はお互い様です」
シャルル翁は威厳のある様子で言った。
「既にお仲間より聞いてはおられようが、ここはクラインの城、雪龍城シャトー・ドラゴネージュです。私はシャルル・ルイ・クライン、クライン魔法公爵家の家長です」
結婚式に来てくれたのは、シャルルと息子オーギュストである。
「先日は結婚式にご参列いただき、誠にありがとうございました」
「新婚早々こんな目に遭われて、災難でしたな」
「お心遣い痛み入ります」
「さあ、今はしばし憂き世を忘れて、旨き物でもお召し上がりませ」
「はい、いただきます」
ベルシエラの返答を合図に食事が運ばれて来た。飲み物が順番に注がれる。大きめの透明なピッチャーから流れ出る青い液体が、同じように透明なゴブレットに満たす。液体には銀色の粉が混ざっている。
クラインの城では食前の祈りはなく、家長による振る舞いの挨拶が食事の合図だった。森や山に感謝を述べるのがエルグランデ王国では一般的だ。そんなところもクラインの城は独特である。
「時にセルバンテス夫人」
シャルルは気さくに話しかけてきた。
「はい」
「今ギラソル領では魔物が増殖しているそうですな?」
救けられた仲間たちが話したのだろう。
「ええ。棘の魔物が森で増えたのです。ありがたいことに、魔物討伐隊本部に来ていただけるとのお知らせをいただきました」
ベルシエラは他所の領主にどこまで話して良いものか迷った。魔法酔いを起こす植物の魔物の原生地が不明なままだ。あの洞窟なのか、あるいは移植されたのか。後者なら、ヒメネスだけの企てではないかもしれない。
しかし既に王宮まで援軍を頼んだ事態だ。ある程度の情報は伝えたほうがよさそうである。
「お許しいただけるなら、わがクラインの飛竜騎士団を派遣させていただこう」
思いがけない申し出に、ベルシエラは感激で眼を潤ませた。
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