表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第九章 一匹たりとも魔物を逃すな

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

157/247

157 仲間との再会

 イネスが真剣な顔でベルシエラを見つめた。フィリパも真面目な顔をしている。3人の間に緊張が走る。ベルシエラは緊張で脈が速くなる。居心地の悪い間があって、イネスが再び口を開いた。


「お支度をなさいませんと」

「えっ?」


 ベルシエラは間抜けな声を出す。フィリパは引き締まった表情で深く頷いた。



「せめてお(ぐし)を整えさせて下さいませ」

「あら?そんなに酷いの?」


 ベルシエラは慌てて片手で髪の毛を撫でる。見えないので、どの程度乱れているのか判らない。思えば、まとめてはいなかった。うねる黒髪なので、かなり見苦しく広がっていることだろう。


(ぎゃー、爆発してるかも!)


 ベルシエラは恥ずかしくてへらへらと笑った。


「お昼の前には、櫛を入れましょう」


 イネスがきっぱりと言う。


「花蜜茶で落ち着かれましたら、お世話致しますわ」


 フィリパが決意を込めた笑顔で告げる。


「そ、そう?それじゃ、お願いね」


 ベルシエラは、ふたりの静かな迫力に身が縮む思いがした。



 他所のお城で、魔法公爵家の当主夫人がボサボサというのは聞こえが悪い。見知らぬ場所で目が覚めて、何も考えずに部屋を出てしまったことをベルシエラは後悔した。


 せっかくの珍しい花蜜茶も、鉛のような喉越しに感じた。


(でもこれ、即効性があるのね。ミードやネクタルみたいな神々の霊薬なのかしら?花蜜茶が流れる川や湧き出す泉があったりしてね?)


 目覚めた時には既に怪我も疲れも取れていた。だが冷たい花蜜茶を飲み干すと、身も心も洗われたような心地がしたのだ。



 ベルシエラの髪が仕上がる頃に、扉をノックする音が聞こえた。


「お食事のご用意が整いましてございます。昼食室へどうぞお越し下さいませ」


 落ち着いた男性の声が掛かる。


「お召し物は馬車に置いてきてしまいましたからねぇ」

「このお城にいると汚れが全くつかないですけど、お城のお食事で旅装では」


 イネスとフィリパは残念そうである。


「仕方ないわよ。とにかく行きましょう」

「はい」

「かしこまりました」



 扉の外で待っていた案内係についてゆく。ベルシエラ達の前を歩くのは、別の青年に先導された3人である。騎士アルバロとイグナチオ、そして魔法使い見習いのエルナンだ。皆、元気そうだった。


 背中に呼びかけるのはお行儀が悪いかと思い、ベルシエラは黙ってついて行く。太陽に煌めく木々の葉が、爽やかな風にざわめいている。葉擦れの音に応えるように、小鳥たちが囀っていた。


 白い廊下をぐるりと周り、突き当たりで階段を下りる。階段には緋毛氈(ひもうせん)が敷かれていた。ヨーロッパのお城よりもなんとなく雛壇を思わせる階段だった。


 下りた階の廊下を暫く行くと、開け放たれた観音開きの扉があった。中は食堂である。ベルシエラたちは食器が綺麗にセットされた食卓に着く。


「あっ、奥様」

「ご無事で良かった」

「奥様、お具合は如何ですか?」


 騎士たちとエルナンがベルシエラに気がついた。みな一様に心配そうな眼差しを向けてくる。


「ありがとう。すっかり元気よ」


 ベルシエラはにこやかに答えた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ