157 仲間との再会
イネスが真剣な顔でベルシエラを見つめた。フィリパも真面目な顔をしている。3人の間に緊張が走る。ベルシエラは緊張で脈が速くなる。居心地の悪い間があって、イネスが再び口を開いた。
「お支度をなさいませんと」
「えっ?」
ベルシエラは間抜けな声を出す。フィリパは引き締まった表情で深く頷いた。
「せめてお髪を整えさせて下さいませ」
「あら?そんなに酷いの?」
ベルシエラは慌てて片手で髪の毛を撫でる。見えないので、どの程度乱れているのか判らない。思えば、まとめてはいなかった。うねる黒髪なので、かなり見苦しく広がっていることだろう。
(ぎゃー、爆発してるかも!)
ベルシエラは恥ずかしくてへらへらと笑った。
「お昼の前には、櫛を入れましょう」
イネスがきっぱりと言う。
「花蜜茶で落ち着かれましたら、お世話致しますわ」
フィリパが決意を込めた笑顔で告げる。
「そ、そう?それじゃ、お願いね」
ベルシエラは、ふたりの静かな迫力に身が縮む思いがした。
他所のお城で、魔法公爵家の当主夫人がボサボサというのは聞こえが悪い。見知らぬ場所で目が覚めて、何も考えずに部屋を出てしまったことをベルシエラは後悔した。
せっかくの珍しい花蜜茶も、鉛のような喉越しに感じた。
(でもこれ、即効性があるのね。ミードやネクタルみたいな神々の霊薬なのかしら?花蜜茶が流れる川や湧き出す泉があったりしてね?)
目覚めた時には既に怪我も疲れも取れていた。だが冷たい花蜜茶を飲み干すと、身も心も洗われたような心地がしたのだ。
ベルシエラの髪が仕上がる頃に、扉をノックする音が聞こえた。
「お食事のご用意が整いましてございます。昼食室へどうぞお越し下さいませ」
落ち着いた男性の声が掛かる。
「お召し物は馬車に置いてきてしまいましたからねぇ」
「このお城にいると汚れが全くつかないですけど、お城のお食事で旅装では」
イネスとフィリパは残念そうである。
「仕方ないわよ。とにかく行きましょう」
「はい」
「かしこまりました」
扉の外で待っていた案内係についてゆく。ベルシエラ達の前を歩くのは、別の青年に先導された3人である。騎士アルバロとイグナチオ、そして魔法使い見習いのエルナンだ。皆、元気そうだった。
背中に呼びかけるのはお行儀が悪いかと思い、ベルシエラは黙ってついて行く。太陽に煌めく木々の葉が、爽やかな風にざわめいている。葉擦れの音に応えるように、小鳥たちが囀っていた。
白い廊下をぐるりと周り、突き当たりで階段を下りる。階段には緋毛氈が敷かれていた。ヨーロッパのお城よりもなんとなく雛壇を思わせる階段だった。
下りた階の廊下を暫く行くと、開け放たれた観音開きの扉があった。中は食堂である。ベルシエラたちは食器が綺麗にセットされた食卓に着く。
「あっ、奥様」
「ご無事で良かった」
「奥様、お具合は如何ですか?」
騎士たちとエルナンがベルシエラに気がついた。みな一様に心配そうな眼差しを向けてくる。
「ありがとう。すっかり元気よ」
ベルシエラはにこやかに答えた。
お読みくださりありがとうございます
続きます




