154 明るい城
ベルシエラの呼びかけにヴィセンテはすぐに答えた。
(何か重要なことが分かった?)
(重要かは分からないんだけど)
(うん。言ってみて?)
ヴィセンテは優しく促した。自然に甘くなるヴィセンテの様子に、ベルシエラは赤面する。
(あのね。灯り係のテレサっているでしょう?)
(いるよ。ベルシエラに毒の入った食べ物を渡してた奴だね?)
旅立ちの日に、棘の毒が仕込まれたお菓子を渡されたことは、ヴィセンテに報告済みだ。
(そう。そのテレサ、灯り係だから、何処にでも入れるでしょ?)
(そうだね)
(何処にいても変だと思われないわよね?)
(確かに、発光石がある所なら、居てもおかしくない)
ヴィセンテの声に緊張が走る。
(お母様や杖神様から、何か聞いてない?)
(いや。今シエリータが言ったとおり、何処で見かけても怪しいとは思わなかったんだろう。テレサが食べ物に毒を入れてる所はまだ抑えてないし)
(私はもうお城にいないから、毒入りの食べ物は作らないでしょうねぇ)
ヴィセンテはひとつ質問をした。
(シエリータに渡された食べ物の毒は、魔法酔いとは関係あるの?)
(多分ないわ。普通の人だと緩やかに命が危うくなると思うけど、魔法酔いとは違う)
(ええっ、そんなもの食べてよく生き延びたねぇ、一周目のベルシエラは)
(むしろ魔物の毒だったから平気だったのよ)
ベルシエラは魔法の力が強かったので、魔物の作る魔法の毒ならば消し去ってしまえたのだ。
(普通に毒薬を混ぜられてたら、けっこう危なかったかもしれないわね)
(月の民が使っていた浄化の魔法が伝わっていればなぁ)
ヴィセンテは心底残念そうだ。
ベルシエラはヴィセンテの言葉を聞いて、今感じていることを伝えようと決めた。
(エンツォ、不思議なんだけど、今いる場所には浄化の魔法があるかも知れないの)
(そこで誰かに聞いたの?)
(ううん、まだよ)
まだ人影は見ていない。滝壺から流れに呑まれた仲間たちともそれ以外の誰かとも出会っていなかった。窓の外に鳥や小動物は見えるが、人の気配はない。
(じゃあどうしてそう思うの??)
(真っ白なお城なんだけど、なんだか空気が清々しいのよ)
(神秘的な感じがする?)
ヴィセンテは考えながら聞いた。
(ええ。そういえば、そんな感じだわ)
(もしかしたら、神殿かもしれないよ?)
(あら、そうね。そういえば、そうかも)
この国の神殿には、世捨て人のような神官達が住んでいる。彼らは自然に同化して生きていると言われるほど、浮世離れしているそうだ。神殿は人跡稀な山奥にあることが多い。窓から見える景色は、まさにそういう場所であった。
お読みくださりありがとうございます
続きます




