153 流れ着いた先は
状況を大まかに把握したベルシエラは、騎士団の対応にも理解を示す。
(後手後手になるのは悔しいけど、どうしようもないわね)
(仕方ないよね。こんなことが起きてるなんて、真っ只中にいる僕等でさえまだ信じたくないんだから)
いつ巡視隊の防衛線が破られるのか分からない状勢だ。つい数日前までは、魔物がここまで増えるなどとは想像すら出来ない日々だったのに。ふたりの間に諦めムードが漂う。
(エンツォ、いつ魔物がお城まで攻め込んでくるか分からないわ。出来るだけ休んでおいてね?)
(何を言っているの?シエリータこそ、無茶なことばかりしないでよ?)
(分かってる、って言いたいけど)
(シエリータ?)
ヴィセンテが苛立ちを見せる。遠くにいて助けられないもどかしさがある。慎重とは思えない妻の行動には怒りすら覚える。
(何をするつもり?シエリータ。何日も気絶してたんでしょう?これ以上危ないことしないでよ?無事に帰るって約束して?)
(とりあえずは、私が何処にいるかだけでも調べなくちゃ)
(それはそうだけれども)
(それじゃ、また後でね)
(今いる場所が分かったら、すぐに伝えるんだよ?)
(ええ、伝えるわ。でも、エンツォも無理に起きてちゃダメよ?)
(分かったよ)
ヴィセンテは渋々承諾した。
心の会話が済むと、ベルシエラはようやく落ち着いて周囲を見回した。その部屋には大きな窓があり、シミひとつない純白の石が壁や床に張り巡らされていた。
(魔法石かしら?少し気配が違うけど。なんだか、魔法よりもっと清涼な、呼吸が楽な感じがする)
ベルシエラはひとりで大きなベッドの上にいた。柔らかく清潔な寝具の中で、旅装のまま寝かされていたようだ。
(やだ、お布団汚れちゃうわ)
ベルシエラは慌ててベッドから飛び降りる。
(あら?ちっとも汚れてないのね?)
これも不思議な気配がする魔法のようだ。
(もしかして、ギラソル領では失伝した浄化の魔法かしら?)
かつて祖先アラリックが月の民ルナに魔物の毒を雪いで貰った時の魔法だ。ベルシエラは経験したことがないので、本当にそうなのかは分からない。だが、もし浄化の魔法が現存するならばこんな感じなのだろう、と思える清らかさが漂っていた。
ベルシエラは扉を開けた。銀色の滑らかな革が張られた縦長の扉である。廊下にも大きな窓が並んでいた。カステリャ・デル・ソル・ドラドの造りとは随分見た目が違う。陽の光がたっぷりと降り注ぐ白い廊下は、ゆったりと弧を描いて扉の前を通る。窓が細く少なく薄暗い、灰色の城とは別世界であった。
(あっ、そうだ、エンツォ!)
(んっ?どうしたの?シエリータ)
廊下を見てベルシエラは、慌ててヴィセンテに話しかけた。




