152 ベルシエラは目を覚ます
激流に翻弄されて、一同は次々に気絶した。どうにか皆をひとつの炎球に入れたのを最後に、ベルシエラも意識を手放した。皆を溺死から救ったものの、残念ながら乾かすことまでは出来なかった。
ベルシエラが次に気がついたのは、遠くからの呼び声によるものだった。最初は暗闇に何か判別出来ない音がしていた。それからぼんやりと視界が開け、人声もはっきりと聞こえた。
(シエリータ!)
(エンツォ?)
人声と思ったものは、ヴィセンテからの心の会話だった。
ヴィセンテの憔悴しきった様子に気を取られて、ベルシエラは今いる場所が目に入らない。
(ああ、よかった。目が覚めたんだね!)
(確かに気が遠くなってたわ。心配かけてごめんなさい)
(生きた心地がしなかったよ!)
ヴィセンテは恐らく、毎日の会話をしようとしてベルシエラに話しかけたのだろう。
(もしかして、しばらく返事がなかった?)
(なかったなんてもんじゃないよ、シエリータ。3日も心の声は聞こえないし、調査隊の消息も届かなくて)
(何ですって?調査隊が行方不明なの?)
ベルシエラはがばと跳ね起きた。その時初めて、自分が柔らかなベッドで寝ていたことに気がついた。だが、それは後回しにする。
カルロスには魔法の炎で危険を知らせた。その後、エンリケ派と争いになったのだろう。しかし、エンリケ派も戻っていないのは意外だった。
(ヒメネス領に残ってるのか、それとも黄金の太陽城の麓にある森で魔物にやられたのか)
ベルシエラの気持ちが重くなる。
(分からない。全く足取りがつかめていないんだ。ヒメネス領に伝令を送るゆとりもないし)
森の状況もかなり悪いようだ。
(お城は?エンツォは大丈夫なの?)
(うん。首都から援軍が来てくれたよ。最初に到着した人たちが森の様子を見て、魔物討伐の本隊を送ってくれることになった)
(本隊?フランツのお父様たちが?)
それは朗報だった。
フランツの父プフォルツ魔法公爵は魔物討伐隊の隊長である。こと魔物討伐に関しては、当代随一の人物だ。この人自らが率いる討伐隊の本隊が、増殖した棘の魔物に苦しむギラソル領に来てくれるという。
(頼もしい助けだわ)
(うん。もう少しだけ持ち堪えれば、なんとか逆転出来そうなんだ)
(持ち堪えられそうなのね?)
(そりゃ、希望が見えたら力も出るからね)
エンリケ派に掌握された砦は当てにならない。巡視隊の仲間たちが唯一の防衛勢だ。
(魔物は?まだ増えてる?少しは減った?)
(増えてる。だけど、森で食い止めてはいるんだ)
巡視隊の生存能力は、やはりずば抜けていた。
(援軍はどうしちゃったの?全員で本隊呼びに帰っちゃった?)
(うん、帰ったよ。もともと3人の先遣隊というか斥候でね)
(そんな悠長な!ソフィア王女様の報告もあったでしょうに)
(王女様からの親書には、謝罪と一緒にすごく丁寧な言葉で騎士団の甘さが書いてあったよ)
考えてみれば、無理もない話だ。森で急に襲われて吹雪にまで遭ったのだ。実際より大きな被害だと感じてもおかしくはない。援軍を出す騎士団の上層部は相手にしなかったのだろう。ソフィア王女の報告だった為、建前上調査が必要で3人が派遣されたのだ。
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