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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第八章 ハッピーエンドを掴み取れ

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150 植物の魔物

 カルロスが出発してしばらくすると、ベルシエラは休憩の提案をした。騎士ふたりがマントを敷いて、イネスとフィリパを座らせる。ベルシエラにも声をかけるが、断られた。


「私は出来る限りの観察をしておくわ」

「奥様もお休みにならないと」

「ありがとうイネス。疲れたら休むわよ」

「またそんなことをおっしゃって、奥様は働きすぎですよ」

「小言は後でね?いま忙しいのよ!」


 ベルシエラは笑顔で謎の果実と向き合った。



 エルナンも興味深そうに植物へと目を向ける。騎士ふたりは油断なく辺りに気を配っていた。


「え?」


 エルナンのつぶやきに、ベルシエラが振り向く。


「エルナン!下がって!」

「え?え?」


 ベルシエラは叫びながらエルナンに飛びつき、首根っこを掴む。掴んだまま後ろに跳んだ。イグナチオがイネスとフィリパの前に出て庇う。


「奥様!」


 アルバロがベルシエラたちのほうへ走った。エルナンが見ていた植物の辺りから、水が細い縄のようになってたち上がっていた。水はそのままヒュンと音を立てて、ひしめく果実を撫で斬りにした。



「ああっ!」


 ベルシエラは思わず叫び、皆に炎の防壁を纏わせた。バラバラの位置にいたので、1人ずつ幕のように炎で覆う。


 斬られた果実から勢いよく薄水色の液体が飛んでくる。うねっていた茎が激しく蠢く。ゴッソリと持ち上げられた謎の植物は、茎の下に吸盤のようなものが付いている。これで滝壺に貼り付いていたのだ。


 植物は次々に水の縄から逃れ出る。逃れ出てバシャバシャと滝壺に落ちた。だが、大人しく元の状態には戻らない。素早く泳いで岸についた。一部が欠けた植物の群は、ベルシエラたちの方へと這い上がろうとしている。


「奥様ぁ!」

「ひいい」


 イネスとフィリパが腰を抜かしている。騎士たちはふたりを助け起こした。



「奥様、この植物は意志を持っております!」


 エルナンが青褪めた顔で叫ぶ。自立移動をしているのを見れば、最早疑う余地はない。


「そうよ!やっぱり魔物だったのね!」


 ベルシエラは炎で焼き尽くそうとするが、水が竜巻のように渦巻いて襲って来た。炎を飛ばす前に、ベルシエラ自身が水に巻かれてしまう。薄く張った炎の防壁ごと、ベルシエラは魔物の中へと放り込まれてしまった。



 跳ねた飛沫が地面に敷かれたマントにかかる。マントには今、防護を施していない。道すがらに着いた小さな虫や草の葉が水滴に触れる。エルナンが恐怖に目を見開く。


「奥様、この水もただの真水じゃなかったんですね?」


 植物は枯れ、虫は動きを止めて息絶えたのだ。


「違うわ!水はただの水よ!でも毒の汁が混ざっているから」


 蒼い炎を纏わせたナイフで、ベルシエラは魔物を焼いてゆく。キリがないのは元より承知だ。岸に上がるためだけに目の前の魔物を切り裂いては焼く。騎士たちの剣は、迂闊に斬れば毒の汁を溢れさせてしまう。ベルシエラの炎で守られるとはいえ、量が多くなればなんとも言えない。


「奥様、掴まってください!」


 アルバロが鞘ごと剣を差し出す。途端に水が隆起して、アルバロも魔物の暴れる滝壺に落とされた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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