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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第一章 魔法を使える夢を見た
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15 これは気まずい宴席

 テーブルには名札が載っている。隊長に促されて、皆は一斉に席についた。養成課程で文字も習ったので、ベルシエラは森番一家に席を教える。王の御前(みまえ)ということで、一家は青くなり震えている。


 雰囲気から言って処罰はされないだろうと思うものの、やはり不安で仕方がない。ずっと下を向いている。王侯貴族の顔を見ないようにしているのだ。


「苦しゅうない。面をあげよ」


 王が片手を挙げると、壁際の配膳係が水腕を配った。本や映画、そしてニュースなどで見たことはある。


(フィンガーボウルかな。テーブルにはナイフしかないから、手で食べる文化よね)


 カトラリーの無い時代に指先を洗った容器だ。現代でも正式な晩餐などで使用される。現代でもパンは手で食べる物だから。友達が配膳バイトをしたとき、ちゃんと手を洗っている、失礼だ、と騒いだ人を見たそうだ。ため水は汚いからおしぼりをくれと言う人もいたらしい。様々な意味で日本人には合わず、定着しない道具である。



 しかし、夢の世界は現実とは違う。とりあえずは観察だ。ベルシエラは王と隊長の行動を真似る。


(やっぱりあってた)


 映画などでは、庶民主人公が貴族に嫌がらせされる場面でお馴染みの容器だ。嫌がらせなので、偉い人たちは主人公が食事を始めるまで一切動かない。


 幸いこの席は、彗星の如く現れた天才庶民魔法使いへの嫌がらせではないようだ。毒味役が一口ずつ確認したのち、王が真っ先に手本を示してくれる。皆はその作法に従う。



 森番一家もチラチラと隣を伺いつつ、食事を進めている。


(可哀想に、父さんたちは食べた気がしないんじゃないかしら)


 ベルシエラは気の毒に思いながらも、今ここでしてあげられることはない。


 食事は無言で進んだ。現実のヨーロッパでは、かつて厳格な家庭では黙食が仕様であった。しかし、この夢はどうやら宗教的背景が現実の西洋史社会とは違う。キリスト教的な神と悪魔という概念は存在しない。キリスト教的禁欲主義による黙食ではないと思われた。


(なんで何にも言わないんだろ?)



 この夢で魔法使いは悪魔の契約者などではなくて、特別な技術を持った人間のことである。巡視隊所属のフランツとガヴェンは自身が貴族だ。だが、庶民出身でも優れた魔法使いは、貴族の宴に招かれることも多々あるのだそうだ。


 実際、巡視隊が首都に戻ると、ベルシエラも首都にある隊長の家に招かれる。そこではフィンガーボウルの代わりに、日本のおしぼりのようなものが出された。お喋りは自由に出来た。


(隊長も居心地悪そう)


 礼儀正しい隊長が、少しソワソワしている。王から何か話がある予定なのだろうか。王の方を見るのを我慢しているようだ。珍しく落ち着きがない。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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