149 魔法使いたちの立場
ベルシエラの発言に、エルナンが真っ先に反応した。
「はっ?何を仰るんですか?魔物がカステリャ・デル・ソル・ドラドの森に溢れているんですよね?1年間なんて、悠長な」
「私もエルナンと同じ意見です。1年間の観察は、この度の増殖に対応できてから、改めて行ったら如何でしょうか」
カルロスは落ち着いて弟子の意見に同調した。
「あの、奥様」
「なに?イネス?」
「たくさんの魔法の壁や罠があったんですよね?ここ」
「そうよ」
「それも、この植物が作り出したのでしょうか?」
ベルシエラはにこりとした。
「違うわよ。誰かがこの植物を隠してるのよ。この植物が真水を作っているのか、水も誰かが作ったのかは分からないわ。どこかから移植されたのか、元からこの場所に生えているのか、もね」
アルバロが柄頭にかけた手に力が入る。一同は、洞窟に入った時と同じ決断を迫られていた。
「それじゃ、やはりこの機を逃したら隠蔽されるんじゃないでしょうか?」
「そうなのよね。私の炎も万能じゃないし。どうしようかしら」
「馬車から道具を取って来ましょうか?」
カルロスが申し出る。
「うーん、ここの壁は通り抜けただけで、すっかり解除したわけじゃないんだけど、大丈夫?」
ベルシエラはカルロスの能力を測りかねて聞いた。カルロスは静かに頷く。
「最後の罠が作動したら下から援護していただければ」
その時、エステリャが身じろぎをした。エステリャもカルロスの実力を知らなかったのだろうか。彼女は沈黙を守ったので、腹のうちは分からない。
他に意見もないので、カルロスは来た道をひとり戻って行った。ベルシエラは念のため、緊急連絡用の火球を持たせることにした。
「何かあったら、私のほうへ飛ばしてね」
「ありがとうございます!では、急いで行って参ります」
どうやらカルロスはすっかりベルシエラのファンになってしまったようだ。彼は純粋な魔法使いだったのだ。その場で最も力のある魔法使いだけに従う人種だ。
「エルナン、反抗的な態度はやめるんだぞ」
なんと、今まで傍観していた、弟子の不躾な態度を諌めさえした。
「はい、師匠」
まだ見習いのエルナンはやや不満である。エステリャの瞳が微かに光った。
腰に差していた短い杖を使い、カルロスは魔法で浮かび上がった。
(そういえば、カルロスも杖が媒体だわ。セルバンテスか月の民の末裔なのね)
エルグランデ王国で杖を使う魔法使いは、ギラソル領の原住民に連なる血族だけだ。彼等は総じて高い実力を誇る。
砦の魔法使いたちの中には、外から来た人々も多い。見た目だけでは区別がつかない場合がある。カルロスのようにオーロラ眼も銀髪も現れない魔法使いもいるのだ。
ベルシエラは、月の民の特徴を持つエルナンが平凡な見た目のカルロスに師事していることを不思議だとは思っていた。だが、エンリケ派だと思い込んでいたので、普通の魔法使いとは考え方が違うのだろう、と見過ごしていたのだ。
(気をつけてはいるつもりなんだけど、だめね。まだまだ思い込みに振り回されてるわ)
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