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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第八章 ハッピーエンドを掴み取れ

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148 魔法使いカルロスの知識

 魔物の採取と聞いて、イネスとフィリパは気絶しかけてよろめいた。騎士たちがすかさず支える。


(申し出るとは思えないんだけど、それにしても顔色ひとつ変えないのね。ふてぶてしいわ)


 魔法使いたちは多少身を固くしたものの、無表情を貫いている。


「アルバロ、イグナチオ。魔法植物を採取したことある?」


 今度は騎士に聞いてみる。魔物については、どのみち魔法使いしか対処出来ないので聞かない。ふたりの騎士は顔を見合わせる。


「いえ」

「ギラソル領に魔法植物はないですし」


 彼らは魔法酔いに効く花粉の花樹を知らないようだ。元々魔法の気配は普通の人には分からない。砦の騎士たちに周知されない魔法植物があったとしても、彼等には知る由がないのだ。



「あの、先程魔物と仰っておられましたが」


 アルバロが緊張気味に尋ねた。ベルシエラは皆に説明する。


「この植物、魔法の気配が強いのよ。少なくとも普通の植物じゃないわ」

「植物の魔物だという可能性もあるんですか?」

「ええ。魔法の気配が強すぎるし、流れ込んだ海水が真水になってるのも不審だわ。まだなんとも言えないから、採取して調べられたらいいと思ったのよ」

「もし魔物なら、触るだけでも危険なんじゃないでしょうか?」


 心配そうなアルバロとイグナチオを見て、ベルシエラは騎士たちへの警戒を緩めた。


(完全に信頼は出来ないけど、多分ふたりは味方ね)



「そうね。ただの魔法植物だったとしても、触ったり切ったりすると何かが起こることもあるわ」

「普通の草や木にも、煮出すと毒になったり絞るとかぶれる汁が出るものもありますし」


 イネスが怖そうに言った。イネスとフィリパは倒れないように互いを支え合っている。


「それで、あなたたち、どうなの?魔法植物や魔物を採取したことはあるのかしら?」


 ベルシエラは改めて魔法使いたちに問う。年嵩のカルロスが口を開いた。


「魔法植物ならある」

「そう?じゃあ意見を聞かせてくれるかしら」


 あえて棘の採集には触れず、ベルシエラは話を進めた。実のところ、協力的な態度に驚いてもいた。


「先程奥様がおっしゃった通り、触れると害になる植物もあります。まして魔法植物なら、どんなことが起きるか分からない。だから、未知の魔法植物にでくわした場合、我々なら1年間その場で観察を続けます。採取して分析出来ない場合もあるんです」

「あなた、詳しいのね!続けて?」


 意外なことに、カルロスの話はベルシエラが一周目に高名な本草学者に聞いた内容と同じだった。



「採取できる場合には、専用の道具で根から掘り起こして研究施設に持ち帰ります。運搬にも専用の容器を使います」

「今持ってる?」

「馬車に置いてきてしまいました。今回の旅行は薬の調査でしたので、一通りの道具は揃えて参りましたが」

「ええ。荷物のリストは目を通したから知ってるわよ。今持ってるか聞きたかっただけ」

「左様でございましたか。失礼をば致しました」


 カルロスは真摯に謝罪をした。ベルシエラを見る目から敵意が薄れている。エンリケ派の中にも、単純に騙されているだけの魔法使いがいるようだ。カルロスは、ヒメネス領の陰謀とは無関係かもしれない。


「じゃあ、1年間ここにいる?」


 ベルシエラは、真面目な顔で一同を見回した。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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