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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第八章 ハッピーエンドを掴み取れ

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147 海の洞窟で見つけたもの

「あの、奥様。奥様は魔物討伐か叛乱制圧の経験がおありなのでしょうか」


 エルナンが恐る恐る聞いてくる。


「ないけど、森で暮らしてればこんなの慣れっこよ」


 王家の森であろうとも、泥棒や流民は入り込む。野盗が根城にしようと企むこともある。そうでなくとも、凶暴な鳥や獣がいる森だった。王家が狩をする為に、そうした危険要素を排除するのが森番の務めだった。父について学んだことが、今のベルシエラに活かされている。


「魔物討伐で役に立てるかっていうと、全然自信はないけどね」

「砦の討伐隊なら、指揮官になれる実力ですよ!」


 アルバロが感激して言った。頼もしい当主夫人を得た喜びを表している。


「そう?ありがとう」


 ベルシエラはにこっと笑うと、すぐに明かりとなる炎を灯す。


「何、これ」


 まっくらだった洞窟の底が、真昼のように照らし出された。そこに広がる光景に、ベルシエラは息を呑んだ。



 ベルシエラの炎で照らし出された洞窟の底には、信じられない光景が広がっていた。広い滝壺にぎっしりと拳大の果実を実らせた植物がひしめいていたのだ。滝壺の水は崖下の穴から流れ出て何処かへと向かう。


 水は澄んでいて、水底まで見えている。果実は暗い緑で、どぎつい紫の筋がスイカのように入っている。葉はなく、太い緑色の茎が水の中でウネウネと蛇のようにのたうっていた。特別な匂いはない。


「奥様」


 イネスとフィリパが抱き合って震えている。ベルシエラは安心させるようにふたりの肩を叩いた。それから、奇妙な植物がひしめく滝壺へと足を向ける。


「奥様!危険です!」


 騎士たちが飛び出す。


「ひとりはイネスたちについてて」


 ベルシエラは振り向いて指示を出した。少し後ろにいたイグナチオが立ち止まる。魔法使いたちは無表情で立っている。アルバロは柄頭(つかがしら)に手をかけてベルシエラに付き従う。



 ベルシエラは洞窟の床に膝をついて、奇妙な植物のほうへと身を乗り出す。植物はウネウネと揺れ動く。だが、攻撃はしてこないようだ。ベルシエラは果実に顔を近づけて、つぶさに観察した。


「なんの匂いもしない」


 無臭の植物を前にして、ベルシエラは顔を顰めた。この植物が魔物かどうかはまだ分からない。有毒かどうかも分からない。少なくともガスを出すタイプの毒草ではないようだった。


(採取して水薬(ポーション)と成分を比べたいけど)


 ベルシエラは躊躇する。一周目で習った薬草採集の方法が、果たしてこの植物に適用できるかどうかわからない。


「カルロス、エステリャ、エルナン。魔法植物や魔物を採取したことはある?」


 ベルシエラの質問に居合わせた者たちは凍りつく。魔物の採取など、通常は考えられないのだ。魔物はほんの僅かな欠片からでも再生する。それ以前に、魔物に触れたら毒に侵されて死に至る。それはエルグランデ王国民にとっては常識なのだ。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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