表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第八章 ハッピーエンドを掴み取れ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

146/247

146 縦穴を下りる

 最後の床は一際分厚く複雑だった。


「これを破ると作動する罠があるかも」


 ベルシエラは慎重に探る。


「まあ、大丈夫でしょ」


 ベルシエラは自分の作った炎の球に自信を持っていた。調べた限りでは、ベルシエラの魔法を破るような攻撃は仕掛けられていないようだ。そこで、それまでと同じようにすり抜けて行く。傍らでは海水の滝が轟音を立てて落ちてゆく。


 相変わらず洞窟の中では磯の香が感じられない。明らかに海から流れ込んだ大量の水が流れ落ちていると言うのに、山の中にある滝のような匂いがした。洞窟内の環境は、魔法で森や山のように整えられている。



 最後の床を通り抜けてからしばらくは何もなかった。暗闇に縦穴が続いている。そこを静かに下りていく。


「油断を誘うのも込みで罠が仕込んであるみたいね」


 滝の音でかき消されないように、ベルシエラは魔法を使って皆に知らせる。騎士ふたりは顔を引き締めた。腰に帯びた剣に手をかけている。魔法使い2人は何を考えているのかわからない。無表情だ。魔法使い見習いのエルナンは不服そうな顔を継続している。


 イネスとフィリパは肩を寄せ合って微かに震えている。ベルシエラの魔法で暖房は効いていた。寒さからの震えではない。幾重にも張られた防壁や、罠があるという言葉に怯えているのだ。ベルシエラや騎士たちを信頼しているとはいえ、一介の付き添い婦人である彼女等には恐ろしい体験だ。


 この国のダマ・ドノールと呼ばれる女性たちは、貴族の出身である。お仕着せはなく、出身身分に相応しく着飾るのが習わしだ。着替えの手伝いをしたり、ちょっとした物を取りに行ったりするのは小間使達だ。


 ダマ・ドノールは小間使に指示を出したり、身につける物を選んだり、女主人の話し相手になったりする。護衛でもなければ下働きでもない。ただのか弱い貴族女性だ。得体の知れない場所の探検や肉体労働には向かないのである。



「さて、そろそろ底に着くわね。明るくしても大丈夫かな?」


 ベルシエラは灯りの炎を大きく強くした。見える範囲がぐんと広がる。イネスとフィリパは少しだけ安堵の表情を見せた。やはり見えないということは恐ろしいのだ。暗闇には何が潜んでいるのか分からないのだから。


 いよいよ地底が見えてくると、四方から火の玉やら槍やら矢やら礫やらが飛んできた。網も投げられた。毒の霧も発生する。だが、全てベルシエラの炎に焼かれて灰となった。騎士たちは拍子抜けで気まずそうな顔をした。


「罠も終わったみたいだし、出ましょうか」


 ベルシエラは全く動じずに炎の球を解除する。その冷静さに魔法使いと騎士たちは恐怖を覚えた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ