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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第八章 ハッピーエンドを掴み取れ

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144 ベルシエラは海辺の洞窟を調べる

 一行の目の前にぽっかりと口を開けた岩穴は、暗くて手前しか見えなかった。中の様子はまるで分からない。


(変ね。川の水と同じ匂いがするわ)


 ここは海岸である。岩棚は下り坂になっていて、岩穴は半分海に浸かっていた。だが岩穴から流れてくる空気には、潮の香りがしなかったのだ。


(幾つもの魔法が掛けてあるわね)


 ベルシエラは目を凝らす。


(中は真っ暗だし、何があるのか分からない。一旦引き上げるか、それとも少し進むか)


 岩穴の入り口には、見えない魔法の壁がある。ベルシエラには通り抜けることが容易だ。数々の罠も対処出来る程度の魔法だった。物理の罠はアルバロとイグナチオが解除してくれるだろう。ある程度は森育ちのベルシエラでも出来る。



「入るわよ」


 ベルシエラは宣言した。今回は皆に防護の魔法をかけておく。


「それじゃ、付いてきて」


 魔法使いたちの顔色が悪くなった。


(何かに気付いたのか、それともここにある物を知っているのか)


 ベルシエラは最後尾の3人に注意を向けつつ、洞窟の暗闇へと足を踏み入れた。



 洞窟の中はしばらく海水が流れ込んできていた。明らかに海と繋がっているのだが、森の中のような匂いがした。湿った岩壁には何も生えていない。立って入れる入り口だったが、進むに連れて天井は益々高くなる。壁沿いに出来た細い岩棚を、一行は一列になって進む。


 ベルシエラは魔法の炎で行手を照らしている。


「もっと明るくならないんですか?」


 エルナンが咎めるように言った。


「何があるのか分からないでしょ?明かりに刺激されて凶暴化する生き物が潜んでたらどうするの?」


 ベルシエラは振り向かずに答えた。エルナンは食い下がる。


「暗闇に潜んでいる生き物もいるんじゃないですか?」

「それは襲われた時に対応すればいいのよ」

「刺激されなくても襲ってくる奴がいたら?」

「その為にあなた達がいるんでしょ」

「ですから、前もって対処出来るように、もっと明るく」


 エルナンの要求をアルバロが制止する。


「あまり声を出すな。音に反応する生き物もいるからな」


 ベルシエラの魔法で、足音や声は反響しないようになっている。それでも完全な消音ではない。過敏な生物がいたら、攻撃してくる可能性もあった。


 エルナンは反抗的な眼付きを残したが、結局は黙った。



 一行は黙々と進む。気温が下がって来たので、ベルシエラが暖房の炎を灯した。魔法使いたちを見ると、当然のような顔をして自分たちも温めてもらおうとしていた。ベルシエラは諦めて、3人にも暖房をかける。


 凍える心配がなくなり、ベルシエラは再び辺りの気配を探る。


(生き物の気配は無いのね。魚も入ってこない。海藻も、苔すらないわ)


 まるで人工空間のように、海の洞窟には命の気配が全くなかった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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