142 小集団の出発
銀の髪に銀の瞳は、ギラソル領に古代から住む原住民の特徴だ。彼らは魔法に長けていて、媒体にする杖のどこかに必ずギラソルの花と月の紋様を彫りつける。即ち、エルナンは月の民の末裔なのだ。
(だからといって味方とは限らないけど)
ベルシエラはエルナンの返答を待つ。
「食糧が足りない時に、魔法で何をするか」
エルナンは真剣な顔付きで呟く。
「狩り、でしょうか?」
「まあ及第かな。食べ物がなければ、食べられそうな物を集めるでしょう?魔法使いなら魔法を使って、ね。禁猟区には注意が必要だけど、そこは緊急時なので当主夫人権限で許すわよ」
「この辺は海だからな。魚や貝を探してみようぜ」
アルバロが正解を述べた。
「雪を掘れば薬草や寒さに強い植物もあるだろうしね」
ベルシエラは森育ちである。美空の時にはサバイバルとは無縁であった。海辺の事情はまるでわからない。しかし、魔法使いと騎士がいれば、ある程度の食糧は確保できそうな気がした。
「それと、見下されるって話だけど」
ベルシエラは付け加える。
「そんなの、最初からなんだし、気にしなくていいのよ」
にこ、と能天気な笑顔を見せるベルシエラに、エルナンも釣られて笑った。一同の中には顔を顰める者もいた。だが、概ね気持ちがほぐれたようである。
「それじゃ、遅くならないうちに、一回あの岩場に行ってくるわ」
「えっ?危ないって言われたんですよね?」
「危ないとは思うけどね。そういう場所こそ点検しとかなくちゃ。希望者は付いてきてもいいわよ」
アルバロが手を挙げた。隣にいたヒョロリと背の高いイグナチオも片手を挙げる。他の面々も顔を見合わせつつ、パラパラと挙手した。
「すぐに出発するわ。他の人は野営の準備が出来たら休んでていいわ」
ベルシエラが馬に乗って先頭に立つ。イネスとその腹心フィリパが徒歩で従った。ベルシエラはやや意外そうに見下ろしたが、すぐに前を向いて片腕を振り上げた。
小さな火球が飛び出す。
「みんな、この火の玉を見失わないようにね!」
ベルシエラの他に騎馬の者は騎士のアルバロとイグナチオ、そしてエルナンの師匠カルロスとその同僚エステリャ。徒歩はイネス、フィリパ、エルナンである。残りは野営地に残ることを選んだ。
「今回は足場の確認がてら下見するだけだから、すぐに戻るわ!」
ベルシエラは最後に振り返って居残り組にも声をかける。
「お気をつけて」
「いってらっしゃいませ」
心配そうな眼差し、期待のこもる眼、無表情な眼付き、不審そうな視線、敵意の籠った眼光。様々な瞳がベルシエラを見送った。
ベルシエラは連れて行く小集団に速度アップの魔法をかけた。この魔法を使うと、身体に負担をかけることなく通常の倍以上の速さで移動が出来る。大人数にかけると止まる時に面倒なので避けていたのだが、10名足らずの団体なので、今回は使ってみることにした。
「日暮前に戻れるように、急ぐわよ!足元に気をつけてね。出発!」
ベルシエラの号令で、一同は岩礁へと走り出す。立ち位置不明な騎士ふたり、エンリケ派らしき魔法使い3名、信頼できるイネスとフィリパ、そして先頭のベルシエラ。総勢僅か8名で、魔法が絡み合った気配のする場所へと向かうのだった。
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