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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第八章 ハッピーエンドを掴み取れ

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141 若者の主張

「エルナンだったかしら?見習い魔法使いよね?甘すぎるという根拠は何?」


 ベルシエラは毅然として質問する。


「はい。見習い魔法使いのエルナンです」


 エルナンは先ず身分と名前を肯定した。その場に円くなっている人々が固唾を飲んで見守っている。


「第一に、皆完全に疲れが癒えたわけではありません。野営に慣れない者がまた野外で寝るとなると、体調を崩す者も現れるかもしれません」

「泊まれる場所がないんだから仕方ないでしょ」

「そこは交渉なさるべきでは?」

「村も貧しくて余裕がないのよ」


 エルナンは目付きを鋭くした。


「当主夫人だというのに、宿ひとつ確保出来ないまま引き下がられると、今後見下され続けるのではありませんか?」

「私は村人の立場を尊重したいのよ。私だって庶民の出ですからね」


 この言葉にエルナンはぐっと黙った。



「第二に、いつまた吹雪になるかわかりません。外で寝るのは極力避けた方が良いのではないでしょうか?」


 気を取り直して、エルナンは指摘を続ける。


「極力避けた結果の今があるのよ。その話は終わってる」

「その通りだぞ!見習い小僧」


 思いがけない声援が飛んできた。立ち位置が不明だった騎士アルバロである。騎士としては平均的なごつごつとした風貌で、髪と眼はエルグランデ王国に多い茶系だ。全体的に目立たない人物であり、ベルシエラは性根を図りかねていた。


「吹雪になったらどうするのです?」


 エルナンは食い下がった。


「長距離移動の必要はないんだし、この程度の人数、私の魔法で守れるわよ」


 ベルシエラは請け合った。


「食糧は?何度も雪に閉じ込められたら、流石に食糧が尽きるでしょう?」


 ベルシエラはニヤリと笑った。


「ここは海辺で、私たちの中には魔法使いも騎士もいる。この意味分かるかしら?」

「どういうことです?」


 エルナンには分からなかった。


「お前さ、自分一人じゃぜってぇ生き残れないだろうぜ」


 アルバロは呆れて言った。エルナンはキッと睨みつける。


「おっかねぇー」


 アルバロはふざけた。険悪になりそうなので、ベルシエラが割って入る。


「エルナン、食べ物がない時、あなたなら魔法で何をする?」


 エルナンは虚を疲れてぽかんとベルシエラを見つめた。


「え?魔法で?」

「そう。魔法で。エルナンは見習いだけど魔法使いなんでしょ?」

「はあ、そうですけど」


 エルナンは筋肉の薄い人差し指で頬を掻く。彼の魔法媒体は曲がりがないまっすぐな杖である。杖の頭にギラソルと月が彫られていた。ベルシエラはその図案に今まで気が付かなかった。ごく小さく彫られていたからだ。


(この子……!)


 ベルシエラは改めてエルナンの姿を観察する。その若者は銀色の髪を短く刈り込んで、曇りのない灰色の瞳でベルシエラと対峙していた。瞳は光のあたり具合によっては、鈍い銀色に輝いていた。



お読みくださりありがとうございます

続きます

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