141 若者の主張
「エルナンだったかしら?見習い魔法使いよね?甘すぎるという根拠は何?」
ベルシエラは毅然として質問する。
「はい。見習い魔法使いのエルナンです」
エルナンは先ず身分と名前を肯定した。その場に円くなっている人々が固唾を飲んで見守っている。
「第一に、皆完全に疲れが癒えたわけではありません。野営に慣れない者がまた野外で寝るとなると、体調を崩す者も現れるかもしれません」
「泊まれる場所がないんだから仕方ないでしょ」
「そこは交渉なさるべきでは?」
「村も貧しくて余裕がないのよ」
エルナンは目付きを鋭くした。
「当主夫人だというのに、宿ひとつ確保出来ないまま引き下がられると、今後見下され続けるのではありませんか?」
「私は村人の立場を尊重したいのよ。私だって庶民の出ですからね」
この言葉にエルナンはぐっと黙った。
「第二に、いつまた吹雪になるかわかりません。外で寝るのは極力避けた方が良いのではないでしょうか?」
気を取り直して、エルナンは指摘を続ける。
「極力避けた結果の今があるのよ。その話は終わってる」
「その通りだぞ!見習い小僧」
思いがけない声援が飛んできた。立ち位置が不明だった騎士アルバロである。騎士としては平均的なごつごつとした風貌で、髪と眼はエルグランデ王国に多い茶系だ。全体的に目立たない人物であり、ベルシエラは性根を図りかねていた。
「吹雪になったらどうするのです?」
エルナンは食い下がった。
「長距離移動の必要はないんだし、この程度の人数、私の魔法で守れるわよ」
ベルシエラは請け合った。
「食糧は?何度も雪に閉じ込められたら、流石に食糧が尽きるでしょう?」
ベルシエラはニヤリと笑った。
「ここは海辺で、私たちの中には魔法使いも騎士もいる。この意味分かるかしら?」
「どういうことです?」
エルナンには分からなかった。
「お前さ、自分一人じゃぜってぇ生き残れないだろうぜ」
アルバロは呆れて言った。エルナンはキッと睨みつける。
「おっかねぇー」
アルバロはふざけた。険悪になりそうなので、ベルシエラが割って入る。
「エルナン、食べ物がない時、あなたなら魔法で何をする?」
エルナンは虚を疲れてぽかんとベルシエラを見つめた。
「え?魔法で?」
「そう。魔法で。エルナンは見習いだけど魔法使いなんでしょ?」
「はあ、そうですけど」
エルナンは筋肉の薄い人差し指で頬を掻く。彼の魔法媒体は曲がりがないまっすぐな杖である。杖の頭にギラソルと月が彫られていた。ベルシエラはその図案に今まで気が付かなかった。ごく小さく彫られていたからだ。
(この子……!)
ベルシエラは改めてエルナンの姿を観察する。その若者は銀色の髪を短く刈り込んで、曇りのない灰色の瞳でベルシエラと対峙していた。瞳は光のあたり具合によっては、鈍い銀色に輝いていた。
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