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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第一章 魔法を使える夢を見た
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14 ベルシエラは祝宴に招かれる

 司会者が下がると、姓名授与の口上が始まる。口上の担当者は優しげな顔立ちをした初老の紳士だった。


 担当者は魔法使いであろう。正装用マントには、黄色い向日葵のような花と杖が組み合わされた紋章が付いている。魔法職養成課程で習った知識によれば、この紋章はギラソル魔法公爵セルバンテス家のものだ。他の三魔法公爵家と違って、セルバンテスだけは本拠地の領地名と家名が異なる。


(でも変ね。代々虚弱なセルバンテスは、直系が今ひとりだけ。あれは本家の紋章だから当主の筈だけど、当主は床に伏せっていると聞いたんだけど)


「魔法職養成課程終了生ベルシエラ、前へ」


 モヤモヤと考えているうちに口上が終わり、ベルシエラが呼ばれた。



 練習通りに粛々と式典は進む。ベルシエラは玉座へと続く階段の前で跪く。王が厳かに宣言した。


「今よりのち、そなたの名前は、ベルシエラ・ルシア・ヒメネスとする」


 ルシア・ヒメネスは、昔セルバンテス家が栄えていた時代に活躍した女魔法使いだ。ヒメネスはセルバンテスの家臣だったが、その功績が認められてルシアの代にセルバンテスを名乗ることを許された。だから、現在ヒメネス姓は途絶えている。



 祝祭歌が奏上され、ルシアは席に戻る。閉会の合唱に送られて、王が退出した。続いて係員たちも一列になって出て行く。最後に燭台係が扉を閉めるのを見届けて、人々は各々の宴会場へと立ち去った。


 姓名授与式は、伝統的に祝賀パーティーを行わない。魔法使いに名前を下賜することは、いわば異動発表のようなものである。それ自体はお祝いでもなんでもないのだ。


 ただ、それは大変な名誉であり滅多にない出来事である。まして、養成施設を終了したばかりの、まだ就職先も決定していない娘への授与式なのだから。



「ベルシエラ、行くぞ。森番もついて参れ」


 隊長の案内で王宮のとある部屋に招かれた時には、


(流石隊長!)


 としか思わなかった。


「こんな豪華な祝宴をご用意くださるなんて!よく王宮にお部屋を借りられましたねぇ!流石はアレッサンドロ・ホセ・マルケス伯爵様!」


 ベルシエラは軽口を叩く。


「いや、そうではない」


 隊長は苦笑いで否定した。


「控えておれ」

「え?はい?」


 ベルシエラは理解できずにキョトンとした。ゾロゾロとついてきた巡視隊のメンバーも状況が分からずまごまごしている。



 森番小屋の何倍かある部屋だが、王宮の中では小さなほうだ。真ん中には細長いテーブルがあり、清潔なテーブルクロスが掛かっている。ナイフとゴブレットが並ぶ。壁際のワゴンには水を張った器が人数分用意してあった。


 しばらく待っていると、王と先程の口上係がやってきた。王の侍従が椅子を引く。上座に収まった王が頷くと、口上係が口を開いた。


「皆の者、着席せよ」


お読みくださりありがとうございます

続きます

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― 新着の感想 ―
[一言]  口上係がいるのは世界観が細かい。 「王は下々と直接口を聞かない」という意味もあるけど「へいへい王様俺っち礼儀作法なんて知らねーけど」(←斬首)がない。
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