139 黄金の太陽城の状況
ヴィセンテに情熱的な言葉をかけられて、ベルシエラはしばらく眠れなかった。それでもなんとか睡眠をとり、翌朝は同行者たちに今後の予定を説明した。
「ここから休まず移動した場合、丸一日かければ海辺の村につくわ。休憩を入れて、明日の昼過ぎに到着するのを目標とします」
エンリケ派も特に動きがないまま、一同はつつがなく出発した。
(なんだか不気味ね)
ベルシエラは、エンリケ派が何も仕掛けて来ないことに妙な胸騒ぎを覚えた。村人たちも好意的で、何もかもが平穏だった。広野を越えた先にある森に魔物の大群がいるとは想像できない。
波の音が聞こえてきた。海辺の村が見えて来る。カスティリャ・デル・ソル・ドラドからの便りも至って平穏だ。森を徘徊している魔物は森の中に留まっているらしい。
(エンツォ、魔物は今どうなってる?)
(まだこっちには来てないよ)
(どこまで来てるか分かる?)
(森で止まってるよ。でもどんどん増えてるみたいなんだ)
(森の状況を詳しく知りたいわ)
表立っての調査と、幽霊たちの隠密調査と、ベルシエラはどちらを頼むか迷っていた。ヴィセンは杖神様と随時相談しているので、不安は幾分緩和される。
(調査はうまく進んでる?)
(杖神様が引き受けてくださってる。森の状況も、砦の様子もなんというか、膠着状態らしいよ。巡視隊が来てくれたからね)
広野にも黄金の太陽城にも魔物が溢れて来ないのは、巡視隊の奮闘かあるからだった。
(巡視隊は無事なの?)
(今の所はね)
巡視隊は隊長率いる総勢6名の仲間だ。大群を相手にできる精鋭ではある。しかし、いつまでも隊長以下6名では持ち堪えられまい。魔物が増え続ける中で、いつ均衡が崩れるか分からない。
(お城で準備はしてる?)
(してるよ。エンリケ派は邪魔してくるけど、杖神様もお母様もいるから、隠し事なんか出来ないんだ)
幽霊は諜報活動に向く。籠城のために組まれた特別予算を着服した者があれば、直ちに心の会話でヴィセンテに知らされる。杖神様が本格的に介入を始め、物理的にも現行犯で捕縛できた。わざと武器を刃こぼれさせようとしたり、意図的に手入れを怠ったりする騎士たちも捕らえられた。
(毒は大丈夫?暗殺も増えてない?)
幽霊たちの中で、城に入れるのは杖神様と先代夫人くらいだ。ふたりの目が届かないところで暗殺が実行されてもおかしくはない。
(大丈夫だよ。杖神様の古代魔法があるからね)
監視と捕縛を黄金の太陽城丸ごと同時に行えるのだという。
(ただちょっと、砦までは手が回らないみたいなんだけど)
(砦が魔物の侵攻を止められないとなると、かなり厳しそうね)
(うん。いざ城まで来られたら、エンリケ派の騎士や魔法使いたちは頼りにならないだろうし)
(それどころか、ドサクサに紛れてヴィセンテ派を暗殺してしまうかもしれないわ)
(その時は杖神様が対処してくださる)
問題はヴィセンテ当人だ。花粉入りの薬湯を飲み始めたとはいえ、水薬を避けることは難しい。魔物に城を落とされた場合、逃げ出せるか不安である。
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