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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第七章 遍歴のベルシエラ

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138 ベルシエラは毒薬になる果実を探す

(いいえ、みんな無事だったわ)

(良かった。怪我人が沢山出た?)

(それも大丈夫よ。道に迷っただけみたい)

(迷った?そんな迷うような道なの?)


 ヴィセンテは城を出たことがない。森を抜ける馬車道については、地図で知っているだけだ。


(吹雪で周りが見えなかったし、それにね)

(周りが見えなかったの?)

(そうよ。魔法を使ったって、どっちを見ても風に巻かれた雪で視界が塞がれていたわよ)


 ヴィセンテの窓は吹雪の間しっかりと鎧戸が閉められていた。目の前が真っ白な雪と風だけになる経験はしていない。


(ぜんぜん見えなかったのかぁ。シエリータ、良く無事だったねぇ)


 ヴィセンテは改めて安心したようだ。



(ソフィア王女様と巡視隊のみんなは、魔物にも襲われたんですって)

(魔物が出たの?)


 心の会話に緊張が走る。


(ええ。それも大群よ。棘の魔物に囲まれて、逃げてるうちに吹雪に巻かれて道を外れてしまったんですって)

(大群……?)

(ええ。あの大人数を囲んで棘を飛ばして来たそうよ)

(森の魔物は、見かけてもせいぜい数匹だって聞いてたけど)

(魔物の棘を集めている魔法使いたちが、棘から再生させて繁殖もさせてるんじゃないかと思うの)


 ベルシエラはとうとう核心に触れた。ヴィセンテが息を呑む様子が伝わってくる。



(それは流石に、ギラソル領だけで済ませる問題じゃないね)

(ええ。ソフィア王女様が首都に援軍を呼びに向かって下すったわ)

(王女様は頼もしいね)

(ええ。ソフィア王女様にお任せしておけば間違いはないわ)

(そしたら、巡視隊のみんなも無事首都に向かったんだね?)

(いいえ、お城が襲われてるんじゃないかと思って、救けに走ってるわよ)


 それを聞くと、ヴィセンテは動揺を見せた。



(砦は?まさか麓の砦もやられた?)

(分からない。でも、砦を牛耳ってるのは魔物を繁殖させてるかもしれない魔法使いたちだわ)

(そんな。どうしよう。僕、杖神様を呼んでお知恵を拝借してみるよ)

(そうね。杖神様なら切り抜けられる筈よね)

(うん。きっと大丈夫だ。それで、シエリータはどうするの?)


 ヴィセンテは遠く旅路にいる新妻が心配で仕方がない。


(私は予定通りヒメネス領に到着したわ。水薬の材料になる植物の魔物を、どこかで育てているんじゃないかしら。明日はヒメネス城館の近くにある村に行ってみるつもり)

(危ないよ)

(確かに予想より危険な状況だと思うわ。でも、何もしないでただ魔物にやられるよりはマシよ)


 ベルシエラの決意は揺るがない。黄金の太陽城がまだ無事だと判ったので強気になっていた。


(無茶はしないでよ?)

(ふふ、ありがとう。無茶はしないわ)

(本当に、危なくなったら逃げるんだよ?)

(深追いはしないから安心して)

(心配だなぁ)


 ベルシエラはヴィセンテが美しい銀色の眉を下げる様子を思い浮かべた。さぞかし気を揉んでいることだろう。


(ぎゅって出来たら良いのに)

(エンツォったら!)


 ベルシエラは赤くなる。


(でも、今は抱きしめて欲しいかも?)

(かもなの?)

(ふふ、拗ねないでよ)


 ベルシエラは病弱な夫がプイと背中を向ける姿を想像した。


(可愛いひとね)

(やだなぁシエリータ。可愛いのはシエリータでしょ?)


 転んでもただでは起きないヴィセンテは、逆襲して来る。


(僕、シエリータにキスしたいなぁ)


お読みくださりありがとうございます

続きます

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