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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第七章 遍歴のベルシエラ

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135 ヒメネス家の目的

 魔物の大発生は、一周目にも小説にもなかったことだ。一体何が引き金なのだろう。


(杖を奪って古代の秘術を我が物にしたかったんじゃないの?どういうことかしら)


 魔物の数が膨れ上がれば、アラリックの時代に逆戻りである。森や広野にある村や町は襲われて廃墟と化すだろう。水源には毒が染み出し、生き残った人々は再び氷の洞窟に隠れ住むしかなくなってしまう。


(ヒメネス家の狙いは、セルバンテスの秘術を消し去ることだったのかしら?)



 ベルシエラの背中に冷たい汗が流れた。


(私が派手に動いたから、計画が早まったってこと?杖を奪うのは諦めて、勝負に出たのかしら)


 ベルシエラがたいした脅威ではなく、水薬の真実には近づいていなかった一周目。ヴィセンテはエンリケの傀儡であり、ベルシエラが命を奪われた後も復讐鬼でしかなかった。ヴィセンテもまた、ヒメネス家への根本的な疑いは持たず、エンリケ叔父のお家乗っ取り程度だと思い込んでいたのだ。


 本当の目的が魔物の増殖であったなら。それに対抗出来る力をひとつでも潰しておくのは当然だ。ましてセルバンテスの当主が操る古代魔法の数々は、魔物がこのメガロ大陸を覆い尽くしていた時代に編み出された秘術である。当主の力を象徴する杖を奪おうと思いつくのは必然だ。



 その手段として、セルバンテスの当主を虚弱化して操りやすくする。そうやって魔物への対抗手段を封じてしまう。エンリケは野心家だった為にヒメネス一族に取り込まれた。そう考えれば分かりやすい。


(でも、ヒメネス家は古くからセルバンテスに仕えた騎士家だったのに)


 魔物は増やすより減らすほうが、本来のヒメネス家にはしっくりくる。


(変わったのはルシア、いえ、ルシアの母親ガブリエラからだわ)



 セルバンテスの杖は、他の魔法使いたちの魔法媒体と異なると考えられていた。杖に魔法が宿ると言われていたので、継承者だけではなく杖自体も狙われたのだ。



 実際には杖に魔法が宿るわけではない。それは継承者しか知らない事実だった。


(開祖の道具に宿ってた古代魔法じゃなくて、道具のそばにいた始祖というか、始祖の更にご先祖様の幽霊が杖を使って伝授した古代魔法なのよね。結局杖は魔法媒体に過ぎないわ)


 杖のそばにずっとご先祖様がいたために生まれた誤解なのだ。杖そのものが杖神様と呼ばれているのもその為である。


 そして杖を壊すことが古代魔法を封じるというのは、ある意味で正しい。杖神様は幽霊になっても杖を通じて魔法を使えるのだから。ただ、杖は新たに作り出すことが可能だ。結局のところ、杖を折るなり燃やすなりしても、せいぜい時間稼ぎになるだけなのである。



「ソフィア王女様」


 ベルシエラは改めてソフィアに話しかける。顔つきは真剣そのものであった。


「魔物を増やしているかもしれない黒幕が解るかもしれません。私はその本拠地に向かっています」

「何ですって?」


 ソフィア王女は険しい顔になる。


「でも、今、魔物がカスティリャ・デル・ソル・ドラドに向かっているかもしれません」

「あの大群なら退治される前にお城に着くかもしれないわ」

「森を出てギラソル領も出て、メガロ大陸中に広がって増えて行くかもしれません」

「そうね」


 ソフィアは暗い声を出す。


「王女様」


 隊長の呼びかけは、王女に決断を促している。ソフィア王女はたおやかな栗色の眉を寄せて眼を閉じる。彼女は、遠く幼い日の川辺を思い出していた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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