13 王様は名前をくれる方
ノコギリ鳥のいる森を出てから、幾つもの季節が過ぎた。ベルシエラは魔法職養成施設の宿舎を出て、首都の市場へと向かう。魔法使いは希少なため、養成にかかる費用は全て国持ちだ。学生でも請け負える仕事もあり、多少のお小遣いもある。
「ベルシエラさん、おはよう。バイトかい?」
「ううん、今日はお休み。おりんご2つ貰うわ」
「休みか。ほれ、りんご2個。毎度。じゃ、気をつけてな」
「ありがとう、おじさん」
食べ物も宿舎で支給される。だが、おやつを買ったりもする。広場の真ん中には花壇があって、そこには石のベンチがある。
「よかった。空いてる」
ベルシエラはベンチに腰掛けると、りんごを拭いて齧り始めた。数週間過ごした森よりも、今では石造りの首都のほうが長い。
(しかし長い夢よねぇ。いつになったら覚めるのかしら)
ベルシエラは順調に魔法修行を進め、この春には名前を賜ることになっている。あの時森で巡視隊を守った功績から、養成課程を終えたら名前を賜ることが決まっていたのだ。
(式典の前に覚めたら、ちょっと残念かな?表彰されたことなんか無いから、楽しみだなあ)
仲良くなった巡視隊のみんなは、1年間の殆どを首都から離れて旅の空だ。今年もそろそろ首都に戻ってくる。狩りの季節がやってきたのだ。名前の授与は狩りへと出発する前に開催される予定である。森番の一家も、巡視隊と一緒に首都へとやって来ることになった。
(久しぶりにみんなと会えるし、まだ覚めないといいな)
ベルシエラは2個目のりんごを手に取った。
結局夢から覚めることはなく、式典の日がやってきた。野宿を主張した森番一家だったが、巡視隊の計らいで庶民向け宿屋に泊まることができた。
「こんな格好で最前列なんて、大丈夫ですかい?」
森番は式服など持っていなかった。だが、巡視隊のメンバーと共に最前列での参観となった。関係者席というやつである。
「式服もご用意出来たら良かったのですが」
隊長が申し訳なさそうに言った。
「なにしろ史上初の養成課程終了生に対する姓名授与式ですからね。参列希望者の注文で、仕立て屋どころか古着屋ですら在庫切れですよ。気づいた時には遅くて」
「ベルシエラに、そこまで凄い才能があったとはなあ」
隊長の説明に肝を潰したディエゴが、しきりと無意味なため息を吐く。
「魔法のことはぜんぜん解らなかったもんで」
「本当にねえ。いや、大したもんだ」
アレックスとサラもやたらに首を振るばかり。
ファンファーレが鳴り響く。係員が列をなして入場し、玉座のあるステージに燭台を設置する。式次第の説明があり、いよいよ王が着座した。堂々たる体躯をした栗毛の王は、鋭い灰色の目をしていた。
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