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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第七章 遍歴のベルシエラ

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127 旅立ちの空は雪


 一周目にはギラソル領の村人たちから貰った、旅立ちの祝福である。城を発つ日に受けたことのない祝福だ。ヴィセンテが見送りに出てきたことはなかった。帰城を迎える人もいなかった。旅先の村々では歓迎され、別れを惜しまれたのに。


 今回のベルシエラは、ヴィセンテ派からの信頼を得た。ヴィセンテがわざわざ声に出して旅の目的を明言したのだ。セルバンテス家と当主を思う心を持った人々は、期待の眼差しを向けている。


「ありがとう、皆んな。ご当主様とお城を頼みましたよ」


 涙声ではあるが、ベルシエラは背筋をしゃんと伸ばして威厳ある姿を見せた。ヴィセンテ派の目には、頼もしい女主人の姿として映る。


「良いお薬をお願いします!奥様」

「お薬、見つけてきて下さいね!」


 厨房チームが叫ぶ。彼らは花粉入り薬湯のレシピを託されていた。一周目に収集した薬膳レシピも渡してある。道中食の試作を通して仲良くなることができたのだ。


 中には好意的なふりをしたエンリケ派も混ざっていることだろう。だが厨房の幾人かはフェルナンドからも信頼されている。一周目、ベルシエラに食事が届かなかった原因は配膳人や城の警邏騎士かもしれない。



 一周目とは何もかもが違う。城に来てたった数日なのだが、エンリケ派があからさまな敵意を見せられない迄に変化していた。作り笑いで祝福を述べるエンリケとその手下たちだが、注意して観察しないと見分けられない者もいた。穏やかににこやかに排除し、さりげなく無視する狡猾な人々だ。


 そうした手強い敵対者たちが、ベルシエラの留守中に力を盛り返さないことを祈るばかりである。


「それじゃ、もう行くわ」

「うん、行って、らっしゃい」


 ベルシエラと心を通わせた今回のヴィセンテは、既に回復の兆しを見せていた。途切れ途切れの話し方も、幾分呼吸が楽そうである。気持ちが強くなれると治りも速くなるものだ。



 花粉入りの薬湯は、魔法酔いの症状を緩和するだけのものだ。それ故に、一周目のエンリケ叔父からも初めは見逃されていた。ヴィセンテが体力を取り戻し出してから、効果的な民間療法をもたらすベルシエラが狙われたのだ。


(砦から来る当番制の通い騎士以外は、魔法使いも騎士も信頼できない。厨房のみんなもフェルナンドたちも、どうか無事でありますように)


 ヴィセンテたちはいつまでも見送っていた。ガラガラという車輪の音を立てて離れる馬車の窓から、ベルシエラは城が見えなくなるまで手を振りかえす。



 旅立ちの時に分かったことがある。


(トムはヴィセンテを大切な主人で弟みたいにも思ってるんだわ)


 ディエゴがベルシエラをヴィセンテに託した時と同じ眼差しを向けられたのだ。それは演技とは思えなかった。今回はヴィセンテがベルシエラを大事にしている。ベルシエラの気持ちも一周目とは違う。仲睦まじい夫婦の様子に、従者トム・リョサも心を開いてくれたのだ。



お読みくださりありがとうございます

続きます

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