122 ヴィセンテは情報を得る
(正直、まだ全部は信じられないけど、やっと話してもらえて嬉しいよ)
ヴィセンテは、躊躇いがちに感想を述べた。一周目のベルシエラが命を落としたのは、やはり自分のせいだと感じていた。
(具合が悪いからって八つ当たりばかりして、シエリータを苦しめてたなんて信じたくないよ。でも、時間が巻き戻されたってことは、僕にもやり直しのチャンスが与えられた、ってことだし)
「すぐに受け入れられないのはわかるわよ。実際に体験している私だって、こっちに戻ってからしばらくは夢だと思ってたんだから」
ベルシエラはヴィセンテの気持ちに寄り添った。ヴィセンテにはそれがたまらなく嬉しかった。今まで仲間外れにされている気がしていたからである。
現実としては、こちらに魂が戻ってから記憶が戻るまでには時間がかかった。転生と精神の時間旅行を同時に体験したなんて、当時のベルシエラは思いつきもしなかったのだ。受け入れる受け入れない以前の問題である。
(エンリケ叔父様がシエリータに酷い事を言ったのは確かだね。それに、家族にまで本家の紋章を付けさせるのは違うと思う。そんな事をしたから、子供達が僕やシエリータを嘲笑ったんだよね)
改めてエンリケ一家の異常さを言葉にすると、ヴィセンテの視野は開けて行った。
ベルシエラと先代夫人は、前日に得た情報も伝える。ヴィセンテは驚いてぐらりとよろめいた。ベルシエラが慌てて支える。幸い薬湯は飲み終えていたので、器が割れることはなかった。離れたところで騎士と魔法使いが身構える。大きく傾くヴィセンテが見えたのだろう。
(シエリータ、詳しく調べに行ってくれるんだよね?)
「ええ、ヒメネス領を訪ねて、ファージョン家に話を聞きに行って、それから王立薬学研究所資料室のオルトルフ・マイスター先生にお会いするつもりよ。それでも足りなければクライン領にも足を伸ばすわ」
(そんなに?)
(ごめんなさい。でも、行く場所も聞くことも決めてるから、長くはかからない筈よ)
ヴィセンテは諦めてため息をつく。ベルシエラは場違いだとは思いながらも見惚れてしまった。青白く痩せ細った美しい人が、朝陽の注ぐ冬場の庭で、物憂げにため息を付いている。それは一幅の宗教画のようであった。
(拝みたい。拝める。もはや拝むしかない。グッズはまだですか。むしろ作る。みてよ、この美しさ。なんて神々しい。魂の美しさが輝きを放っているわ。尊い。奇しい。眩しい。後光が差してる。儚げに束ねた銀のポニテを黄金のヴェールが包んでいる。冬の化身、雪の精、それとも朝陽に消えかけた月の霊かしら。五体投地すべき?お供えあったかな?お賽銭箱どこかしら?ああそうだ、帳簿係よ。フェルナンドがいるじゃないの。サブスク夫神様に課金したいって言いにいかないと)
(ベルシエラ?)
(この問題もあった)
ベルシエラは不用意な心情の吐露を聞かれてしまい、羞恥で消えたくなった。
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続きます




