表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第七章 遍歴のベルシエラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/247

121 ヴィセンテはベルシエラの転生を知る

 ヴィセンテの満ち足りた気持ちが伝わって来る。


(好きでいるだけで守れるなんて、あり得る?僕、それならいくらだって出来るよ!)


 病弱な当主は、恥ずかし気もなく好きな気持ちを見せて来る。


(ふふ、嬉しい)


 ベルシエラは心からの言葉を返す。


(また明日ね。おやすみなさい、エンツォ)

(うん。おやすみ。シエリータも早く寝るんだよ?根詰めちゃダメだよ?)


 優しい気遣いを受けて、ベルシエラはほうわりと心が温かくなった。冬はまだ盛りだが、まるで春の陽射しを受けたかのような錯覚に陥いる。ベルシエラの胸の中には、ひっそりと春の花が開く。


 その花は小ぶりで優しい色をしていた。ひとつひとつは小さくて見落としてしまいそうだ。だがいつの間にやら広野(ひろの)も丘も埋め尽くす。それでも派手な装いではなく、どこまでも大人しく揺れている。そんな忍びやかな花だった。


(ありがとう、エンツォ。私も、今日はここまでにしておくわ)

(それがいいよ)


 それからふたりはそれぞれに微かな笑いを溢した。互いに顔は見えないけれど、満たされ合う気持ちは届く。その晩は、ふたりともぐっすりと眠ることが出来た。



 翌朝、ヴィセンテは朝食に出てきた。当主代理一家は、渋々とはいえ本家の紋章を外している。流石に杖神様を手にした本物の当主に叱られては、逆らうわけにもいかないのだ。ここで逆らえば、当主代理の地位を失うかもしれない。場合によっては命も取られるかもしれない。


 杖神様が飛んできたことで、ヴィセンテ派が勢い付いている。エンリケ叔父は気に食わない様子だ。温和な表層を保ってはいるが、水面下では一気に逆転するべく動いているのだろう。


(今すぐお城を離れるのは心配だけど)


 ベルシエラは黒く艶やかな眉を寄せる。


(お城を離れる?どこへ?)


 ヴィセンテの瞳には不安の陰が(よぎ)ぎる。


(魔法酔いを治してお城を取り戻す方法を探せる場所へ、行って来るつもりなのよ)

(そんな。それは嬉しいけど、でも、僕たち新婚だよ?1週間も経ってないんだよ?)

(分かってるわ。私だって、なるべくならお城を離れたくないわ。でも、エンリケに対策を取られる前に動かないと)


 ベルシエラが見張られている今回は、何事もスピードが決め手となりそうである。


(そこを乗り越えれば、いくらでも一緒にいられるのよ)

(そうだけど)


 ヴィセンテはそっとベルシエラの指先に触れる。



 その日はやっと、食後の散歩が実現した。見張られながらではあるが、ふたりは東屋に腰掛ける。先代夫人もやってきた。ベルシエラは魔法を使って、その場で花粉入りの薬湯を煎じた。


 薬湯を用意する間に、ベルシエラは一周目からの出来事を簡単に話した。時間もないがそれ以上に、ヴィセンテの気持ちを思うとあまり詳しく話せなかった。エンリケがベルシエラの命を奪い、先代夫人の魔法で時間と世界を超えた。一周目のヴィセンテは復讐を遂げた。今はそれだけを告げたのだった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ