12 巡視隊に魔法使いは2人いる
翌朝村を出て町に向かった。羊飼いや牛飼いが放牧に出かける様子が遠くに見える。ベルシエラはまた徒歩で隊列について行く。しばらく進むと小さな森に入った。狩場のある森よりも明るい。馬車道は踏み固められて、草が生えていなかった。狩りの季節が近く、交通量が多いためだろう。
「下がって!」
先頭を務める魔法使いが叫んで、マントの中から一冊の本を取り出した。巡視隊の魔法使いは2人いる。先頭と殿を交代しながら旅をしていた。
いま叫んだのはフランツ・ヘルベルト・フォン・プフォルツ。手袋に染め抜かれた紋章は本と羽だ。魔法家系は4系統あって、そのうちの一つが森林地方を本拠地とするプフォルツ魔法公爵家である。狩場のある森もプフォルツ領だ。家長は現魔物討伐隊長を務める。フランツは本家の第二子であった。
「朝っぱらから、ご苦労なことだな!」
フランツが掲げた本が光る。健康に育つ木の幹に似た茶色い光が本から飛び出す。光の先には、薄汚れた男たちがいた。手に手に刃物を構えている。
「うわぁ!魔法使いかよ!」
「くそっ、10人もいねぇから油断したぜ」
野盗である。姿を見せたのは数名だが、木陰にひそむ仲間はかなりの数に上るようだ。
ベルシエラは咄嗟に弓を構える。騎士たちも剣を抜いた。
「よし!一気にいくぞ!怯むな!」
「へい、親分!」
枝から飛び降りてくる者、木陰から襲いかかる者、石を投げる者。ナイフを投げてくる者もいた。ベルシエラは人間に向けて矢を放つのに躊躇した。凶暴なノコギリ鳥やオレンジ色の獣とは違うのである。美空は現代人だ。人に武器を向けることには慣れていない。
殿を務めるガヴェン・スチュアート・ウォルター・ファージョンは、手袋を外して赤い石の嵌まった指輪に口付けた。途端に指輪は光りだし、背後に迫る盗賊たちに光の弾丸を放つ。
ガヴェンの手袋にある紋章は、山と指輪である。ガヴェンはファージョン魔法公爵本家の孫だ。下に妹がひとりいるらしい。ファージョン家の本拠地は山岳地方。馬術にも長けた家柄である。
「お前ぇら、退くぞ!」
親分の一声で、盗賊たちの気配が消えた。あっという間に逃げ去ったのである。
「隊長、どうします?」
ガヴェンが聞いた。ガヴェンの腕なら、巧みに逃げる親分を捕らえることも可能だ。
「町の警備隊に任せよう。隠れ家を探して一網打尽にしてくれるだろ」
先を急ぐ旅なので、隊長は寄り道をしないことに決めた。
ベルシエラは時々ゲルダに乗せてもらいながら、こうして村や町を通り過ぎて行った。所々に森があり、さほど高くは無い山も越えた。畑を抜けて高い壁のある首都に到着する頃には、巡視隊とすっかり打ち解けていた。
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続きます