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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第六章 龍と魔物と人間と

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117 ベルシエラは閲覧する

 閲覧室には、艶のある堅牢な木製ベンチが置かれていた。ベンチの脚にも見事な彫刻が施されている。4本の脚其々をドラゴンが支え、座面の側面には浮き彫りにされたドラゴンと霊鳥、そして霊獣がぐるりと囲む。


 ベンチの前に置かれたテーブルはどっしりとしている。閲覧しやすいように天板には装飾がない。側面だけはベンチ同様の連続模様が浮き彫りにされている。脚にもベンチと同じ彫刻が施されていた。


 ベルシエラは選んで来た資料の中から、一冊の伝説集を手に取った。


 一周目には、魔法酔いの資料ばかり見ていた。薬や民間療法も旅行がてら集めていた。だが、魔物の毒については思いつきもしなかったのである。今回、幽霊たちの証言で、人間が魔物の毒を利用する可能性を知った。


(魔物の毒を知るには、まずは魔物についての復習からね)



 獣皮紙の反りを抑える金属の帯と鋲は八重咲の豪華な蔓花の形である。蔓バラに似たこの花は、エルグランデではロサムタービレと呼ばれる。国によって呼び名が違うが、これも魔法の花である。害意がある者にのみ棘を伸ばして攻撃する。


 本は魔法で施錠されている。


(単純な錠ね。危険な情報は載ってないみたい。特別書庫にあったのは古くて貴重だからだな)


 ベルシエラは魔法で解錠する。表紙を開くと美しく彩色された口絵が現れた。(いく)(よう)か頁を繰ると繊細な扉絵に辿り着く。


(「どうして魔物は生まれたの」?昔の貴族が子供のために描いたのかしら)


 本文も華やかな装飾文字で書かれている。挿絵も豊富だ。書かれた物語は、韻を踏んでリズムも一定になっている。


(詩人の(うた)を記録したものみたいね)



 詩人は語る。


 霊獣は猫のような姿だが、尻尾が三本ある。霊鳥の尾は長くやはり三本だ。伝説によれば、太古の時代に雲から生まれた霊鳥と湖から生まれた霊獣は、互いに尾が三本なので仲良くなったのだという。


 ふたりが楽しく遊んでいると、不思議な光が大気に満ちて魔法が生まれた。ヘビやトカゲが魔法を浴びて賢く気高いドラゴンとなった。だが、魔法を浴びたものの中には、凶暴な者も現れた。元々毒を持つ生き物たち、そして生き物ではないものたち。彼らは魔物と呼ばれるようになった。



(うーん、やっぱりただの神話だわ)


 一周目の記憶にも残っている本である。内容は、この国に伝わる神話だった。一頁の文字数が少なく図版も多いので、分厚いが情報量は少なかった。


 その後、ベルシエラは残りの資料を次々と調べてゆく。魔物は勢力を増し、霊獣たちは数を減らした。秘境とか霊獣の里、霊獣の大地とか呼ばれる奥地に追い込まれて行く。既に数百年前から現在のクライン領にしか、霊獣や霊鳥は生息が確認されなくなっていた。



 どの資料も一周目で散々書庫に通って読んだ。だが、セルバンテス本家の書庫は、たかだか数年間で調べ尽くせる蔵書量ではない。中には初めて手にする資料もあった。


(あら、この名前)


 300年前の魔物の研究書を抄録した、100年ほど前に編纂された本を見つけた。


(マテオ・ヒメネス)


 ヒメネス家の先祖だろうか。ベルシエラは興味を惹かれて内容を目で追った。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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